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和義とのことを全部話した。話し終えても、沙代は何も言わなかった。
「……ごめん、こんな面倒な話して」
重苦しい空気に耐えられず、つばさは席を立った。
洗い物でもして心を落ち着かせよう。
そう思い立ち水に漬けておいた皿を洗おうと手に取った時、沙代に背後から抱きつかれた。
女の身体って、こんなに柔らかかった?
と驚きはしたがドキリともしない自分の心に密かに安堵した。
自分の心はまだ女のまま。
「……ごめん。なんにも知らなくて。
ありがと、話してくれて」
沙代にそう言われ泣きそうになったが、グッとこらえた。
そして洗い物をやめ、また二人で話した。
「それでもまだそいつのこと信じるの?」
とうとう親友から『そいつ』呼ばわりされてしまった婚約者。
「だって……」
「クズ男だよ間違いなく」
「クズって……」
「入院長引いてるのに、面会謝絶突破しようとしてないんでしょ?連絡の頻度は落ちてるし写真は出てきた。もう真っ黒だよそれ」
反論できなかった。
「惚れた弱みか……」
「……そうかも」
にやけてしまい、途端に叱られた。
「呑気なこと言ってんじゃないの!
切るなら早く切る!
つばさのキャリアにまで傷が付くから」
「……もう既に傷ついてる。病気休職扱いだし身分偽って働いてるし」
「その原因を作ったのがそのクソ男でしょ?」
「でも、主犯かどうか故意か事故かもまだわかんないし……」
沙代はうんざりしたように溜息をついて言った。
「あー、つばさが恋愛でここまでバカになるとは思わなかったわ……」
「いくらなんでも酷くない!?」
しかしこうやってなんでも言い合えるのか親友、沙代。
つばさは本気で怒ってはいなかった。
「自分で調べに行ったら絶対ダメだからね。いい?」
「……それは分かってる」
探偵の池辺にも言われている。
やるつもりは無い。そもそも仕事が忙しく無理だ。
「探偵さんに追加の調査頼んで白黒つけよう。
で、つばさは仕事と元に戻ることに集中する」
「うん」
「それで……」
その時突然、来客を知らせるチャイムが鳴った。
「誰だろ……」
モニターに映った人物は茂山だった。
「げっ……」
「どうした?」
慌ててモニターを切った。
「ちょっと待ってて。すぐ済ますから。
絶対出てこないでね。いい?」
「……うん。わかった」
今ここで二人を会わせるのは不味すぎる。
茂山を追い払うべく慌てて玄関へ向かった。
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