(02)友

4/7
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/287ページ
 和義とのことを全部話した。話し終えても、沙代は何も言わなかった。 「……ごめん、こんな面倒な話して」  重苦しい空気に耐えられず、つばさは席を立った。  洗い物でもして心を落ち着かせよう。 そう思い立ち水に漬けておいた皿を洗おうと手に取った時、沙代に背後から抱きつかれた。  女の身体って、こんなに柔らかかった? と驚きはしたがドキリともしない自分の心に密かに安堵した。  自分の心はまだ女のまま。 「……ごめん。なんにも知らなくて。 ありがと、話してくれて」  沙代にそう言われ泣きそうになったが、グッとこらえた。  そして洗い物をやめ、また二人で話した。 「それでもまだそいつのこと信じるの?」  とうとう親友から『そいつ』呼ばわりされてしまった婚約者。 「だって……」 「クズ男だよ間違いなく」 「クズって……」 「入院長引いてるのに、面会謝絶突破しようとしてないんでしょ?連絡の頻度は落ちてるし写真は出てきた。もう真っ黒だよそれ」  反論できなかった。 「惚れた弱みか……」 「……そうかも」  にやけてしまい、途端に叱られた。 「呑気なこと言ってんじゃないの! 切るなら早く切る! つばさのキャリアにまで傷が付くから」 「……もう既に傷ついてる。病気休職扱いだし身分偽って働いてるし」 「その原因を作ったのがそのクソ男でしょ?」 「でも、主犯かどうか故意か事故かもまだわかんないし……」  沙代はうんざりしたように溜息をついて言った。 「あー、つばさが恋愛でここまでバカになるとは思わなかったわ……」 「いくらなんでも酷くない!?」  しかしこうやってなんでも言い合えるのか親友、沙代。  つばさは本気で怒ってはいなかった。 「自分で調べに行ったら絶対ダメだからね。いい?」 「……それは分かってる」  探偵の池辺にも言われている。 やるつもりは無い。そもそも仕事が忙しく無理だ。 「探偵さんに追加の調査頼んで白黒つけよう。 で、つばさは仕事と元に戻ることに集中する」 「うん」 「それで……」  その時突然、来客を知らせるチャイムが鳴った。 「誰だろ……」  モニターに映った人物は茂山だった。 「げっ……」 「どうした?」  慌ててモニターを切った。 「ちょっと待ってて。すぐ済ますから。 絶対出てこないでね。いい?」 「……うん。わかった」  今ここで二人を会わせるのは不味すぎる。 茂山を追い払うべく慌てて玄関へ向かった。
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!