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水族館に行ってから数日、今日は金原の家で勉強会の日だ。 週末には遊ぶ約束も取り付けているため、夏休みに入ってからというもの専ら金原とばかり顔を合わせている。こんなに頻繁に友人と会うことはなかったため、家族にはすっかり「初めてできた彼女と会っている」と認識されている。久住としては願ってもない状況だった。 * 一度来たから覚えているだろうと思い駅までの迎えは断ったが、大通りから細い路地に入ったあたりで記憶が怪しくなった。何本目の曲がり角を左に曲がるのか、右往左往していると、金原からマップが送られてくる。まるで見ていたかのようなタイミングに、久住は半ば感心しながら感謝のスタンプを送った。額の汗を拭いながら、マップと見つめ合い、約束の時間ギリギリにどうにか家までたどり着いた。 インターホンを押すと、忙しない足音の後にガチャリと扉が開かれる。 「いらっしゃい」 ドアから顔を出した金原に、久住はほっと息を吐いて笑みを浮かべた。 「お邪魔しまぁす」 間延びした声で挨拶をし、中に入る。汗をかいた体に、ひやりとした空気が心地よかった。 家に来てもらうのはこっちの都合だから手土産は持ってこないでいい、と金原にぴしゃりと言われてしまったので、今回は手ぶらだ。脱いだ靴を揃えていると、後ろでスリッパを出していた金原が言った。 「迷わなかった?」 「ううん。琴音がマップ送ってくれたとき、ちょうど迷っててさ。すごい助かった」 「あの辺り、分かりにくいでしょ」 ちょっと入り組んでるから、と続ける金原の方に、頷きながら振り向くと、ちょうど廊下の手前にあるドアが開いた。 「こんにちは、いらっしゃい」 「あ、こんにちは……お邪魔します」 リビングのドアから姿を見せた椋真に、久住は少しだけ緊張しながら挨拶を返した。 今日は金原の両親が仕事で居らず、椋真だけがいるという話は事前に聞いていた。週に一度、家族で集まって夕飯を一緒にする決まりがあるそうで、今日がまさにその日ということらしい。今日は仕事が休みの椋真が料理担当で、準備も兼ねて昼過ぎからこちらに来ていると言っていた。 「ゆっくりしていってね」 人好きのしそうな笑顔でそう言うと、椋真は久住の隣に目を向けた。 「あとでお茶持っていこうか?」 窺うようなその視線から逃れるように、金原は服の裾を気にする素振りを見せながら首を振った。 「自分でやるから」 素っ気なく返された言葉に、椋真は眉尻を下げながら「そっか」と微笑んだ。見るからにしゅんとした様子に、こちらまで何だか悪いような気がしてしまう。しかし、金原は頑なに目を合わせず、「じゃあ、部屋行くから」とそのまま久住の手を引いた。
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