17話《救出》

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17話《救出》

 急遽同行者が増えた。魔術師たちがラゼンだけでも連れていこうとしたことが引っかかる。ラゼンには何かがあると思った方が良さそうだ。  「魔術師はラゼンを狙ってた。どういうことだろう。」  ラゼンの魔力に違和感はない。魔力の質にも違和感がない。魔術師が狙うなら何か理由があるはずだ。他の竜たちとの違いが。  「色?」  ヴィシルの呟きに答えたのはチャスだった。それならばと、ヴィシルはそのまま呟くことにした。チャスが加わってくれるのであれば、何かに気付けるかもしれない。  「それもあるよね。でも、きっと目に見えない何かもあるはず。」  「魔法?」  魔法か。確かにラゼンの使える魔法は知らない。色からして火と水はあると思っている。他に何かあるだろうか。  「その可能性も否定出来ない。でも、本当にそれだけなのかも怪しいね。他にも何かありそうだけど。」  『私からお話しします。』  ヴィシルとチャスが呟くように会話をしている所に、ひとつの声が加わった。ヴィシルたちを乗せていた蒼竜だ。  『何か知ってるの?』  『はい。』  チャスが聞き返すと蒼竜は肯定の返事をしてきた。真実が聞けるかはわからないが、蒼竜の知ることは聞けるかもしれない。  『母さん?』  『大丈夫よ。信頼出来る方たちですもの。』  声を聞き取ったラゼンが蒼竜を母と呼んで心配そうに声を掛けた。蒼竜は大丈夫だとラゼンに言い聞かせると、ラゼンは大人しく蒼竜に従った。やはり蒼竜はラゼンの母親だったのだ。  『ラゼンは通常の産まれ方をしていません。白衣の男たちによって私たちの遺伝子を掛け合わせ、魔法陣魔法により産まれる前に遺伝子操作をされてしまいました。人は魔法陣を使用することにより、少量の魔力で威力のある魔法を使うようです。ラゼンは本来の種からは有り得ない属性を持っています。火と水と雷、そして闇と時空。彼らは実験に成功したと歓喜していました。狙いは闇と時空。自分たちの思い通りにこの2つの属性を使えることが目的のようです。』  チャスの言っていた属性は合っていたらしい。ただ、闇と時空をなぜ自在に扱えるようになりたいのかが不明だ。  『闇はわかるけど、時空なんて使えるの?』  『彼らは時空という属性を銀聖竜が使えることは人も知らないようです。なぜ時空という属性が必要かまでは話してませんでしたが、何かをしようとしていることだけは確かです。そして、ラゼンを利用しようとしていることも。』  時空魔法は時間を操る。今まで時空魔法を使った銀聖竜はいない。それをラゼンに使わせて何をするつもりなのか。  『過去に戻るとして、彼らが欲しい何かがある?それとも未来?』  「過去だとするなら、今は見かけなくなった銀聖竜がいた時代があったね。」  蒼竜とチャスとの会話に入ってきたのはセムアだった。今はまだ、ヴィシルは聞き役だ。会話が出来ることをチャス以外の子供たちは知らないからだ。  「銀聖竜がいた時代?そんな時代に行ってどうするの?」  「銀聖竜にしか扱えない魔法とかあったり?たとえば、遺伝子操作で時空魔法はどうにか出来たとしても、遺伝子操作をしても誰にも扱えない魔法が銀聖竜にはあるとか?」  「でも、あったとしてもどうにもならないでしょ?それが危険なものなら頼んだって使ってもらえないじゃない。」  「使わせる何かを持っているのかも?」  「何それ。そんなのあったらとっくに使ってるでしょ。どうして過去に戻る必要があるのよ。」  「ごめん、チャス。そこまではわからない。可能性の話だから。」  銀聖竜にしか扱えない魔法?そんなものあっただろうか。ヴィシルはセムアの可能性として話した内容を考え始める。だが、何も思い浮かばなかった。  セムアが竜の言葉で返さなかったことで、チャスも言葉が変わり、結果的に全員に聞こえることになった。2人は注目されているが、視線を向けたうちのセザリシオが何かを考え始めた。  「過去ってことは、建国時代?そういえば、初代国王とパートナーになった銀聖竜は、創生魔法を使ったと言われているけど。」  「創生魔法?」  セザリシオが声に出しながら考えを巡らせていたせいか、その中の創生魔法という部分にチャスが反応した。  「ああ、そういえばそんなのがあったな。実際には万物を作り出す魔法らしいが、大地や国を作るのに最適な状態として創り、あとは草木や建物なんかも魔法で創ったか。」  「そうだね。川を創ったりもしてたかな。」  フィスとユデラが創生魔法を知っていた。思い出すようにして言葉にしたフィスとユデラを皆は瞬きをしながら見ていた。  「ただ、あれは1度しか使えない魔法だって聞いたけど。それにパートナー契約の方法も普通と違うものだから使えるようになった魔法で。」  (パートナー契約の方法が普通と違う?まさか、デリマラさんはラルドさんと思いが通じていた?恋人関係?だが、ラルドさんも妻子がいて、ラルドさんが亡くなってからはデリマラさんも・・・。)  ヴィシルは胸が締め付けられるようだった。2人の気持ちを察しては現実はそう上手くいかないものなのだと思い知らされたようでもあった。  「パートナー契約って、そんなにいくつもあるものなの?」  「通常の契約は表面上の契約にすぎない。だが、あれは・・・。」  フィスの顔が苦しそうに歪む。当時、近くにいたフィスもユデラも何があったのかを知っている。彼らの思いも。やはり思い合っていたのだ。そう思うとヴィシルは初代国王ラルドが婚姻を結ぶ時、デリマラがどんな思いでいたのかと思うと、これ以上考えることは出来なくなりそうだった。  (俺は、パートナー契約をせずに、力を貸すことなんて出来るだろうか。上手く知られずに変えることは出来るのだろうか。)  途端にヴィシルには不安が押し寄せる。それでも表情には出さない様にしたヴィシルの状態に気付く者はいなかった。  「でも、今も銀聖竜はいるんだよな?だったら過去に戻る必要はないんじゃないか?今いる銀聖竜に頼めばいいんだから。」  シャオムが言った言葉に一番ハッとしたのはセザリシオだったかもしれない。その表情はどこか陰り、焦りも生まれていた。セザリシオは今は近くにいないミュアドとその家族を思い浮かべていた。  (やっぱりどう考えてもセズとパートナー契約は無理だろ。俺には出来そうにない。今まで通り陰で手を貸す程度が限界だ。)  諦めたヴィシルは自分の中で結論を出し、その後も聞き役に徹した。ただ、セザリシオは時折ヴィシルを見ては考え込むという状態を繰り返していた。  少しの時間休んで落ち着いた所で、1度帰還することになった。これだけ大所帯で動き回ることに危険を感じたのだ。  「細かなことを調べるにも、1度戻って最小限の人数で出直した方が良い。」  そう言ったヴィシルの意見が採用されたのだ。夜間の間に、急いで村へと戻る。助け出した竜たちと、ハーフの子供たちは置いていくことになる。  「チャス、皆をお願い。」  「うん。任せて。」  チャスは自分がついていくことで足手まといになるとわかっている。本当は一緒に各地を回ったりしたいという思いを胸に押し込め、ヴィシルの言葉を受け止めた。  竜で空を移動したおかげか、ヴィシルたちは明るくなる前に村へと戻れた。村の人たちは寝ているだろう時間のため、少し離れた場所に竜たちに降りてもらった。  村に入り気付いたのは村に残った竜たちだ。マーグとキピニアは勿論、カセラとザウラも起きたらしい。そして意外だったのはシュギとミュアドが家から出てきたことだった。まだ寝ているはずの時間である。  「セズ、ヴィシル。おかえりなさい。よかった、無事に戻ってきてくれて・・・。」  「ただいま。」  セザリシオがミュアドに言うと、ミュアドはセザリシオに抱き付いていった。セザリシオを連れていくべきではないのかもしれない。ヴィシルは痛む胸に気付かない振りをして、ミュアドと一緒に出てきてくれたシュギへと「ただいま」と言った。  「ミュアド、ずっと心配して眠れてなかったみたいなんだ。戻ってきたなら少しはゆっくりしていくんだろ?」  「そっか。俺はやり残したことがあるから行ってくる。セズは残った方がよさそうだから俺だけで行ってくるよ。」  ミュアドもセザリシオが好きらしい。互いに思い合っているのなら、これ以上引き離すわけにいかないと考えたヴィシルは単身で行くことを決めた。  「代わりに俺が行くか。」  「シュギは残って。きっとあの2人は暫く使えなそうだから。このまま行ってくるよ。後お願いして良いかな?チャス、この人に色々と聞いて。」  「う、ん。」  ヴィシルはフィスとユデラに視線で合図を送り、一息つく間もなく村を再び発った。行き先は子供たちが連れていかれたとされる屋敷だが、次の夜にした方がよさそうだ。戻る時とは別の森へと降りてヴィシルたちは休むことにした。  「慌ただしくてごめんな。」  「俺たちは大丈夫だけど、ヴィシルの方が大丈夫じゃないんじゃない?」  「何が?」  ヴィシルが何も聞くなという雰囲気を漂わせると、ユデラはそれ以上聞くことはなかった。心配そうにヴィシルを見るのはフィスも同じだ。あまり急ぐべきではないとフィスとユデラは思った。  「この件が終わったら、少し海にでも行くか?」  「いいかもしれない。」  フィスが提案すると、ユデラは同意した。ヴィシルも悪くないと思い頷く。  次の日の夜、ヴィシルたちはデラドセイア公爵の屋敷の近くまで来て、目的の拐われた4人の子供たちの魔力から場所を特定し、他に誰もいないことを確認してから直接転移した。  「大丈夫?」  「ヴィシルさん?」  反応したのはリャキナだった。他の子供たちは虚ろな目をしている。リャキナも完全に正常とは言えないが、辛うじて意識を保てているのだろう。  「もう、私たちは・・・。カトールもモトナも、殺されてしまったの。私も、あとどのくらい持つか・・・。」  4人は魔力封じの腕輪や奴隷の首輪を付けられている。その全てを外し、4人を結界でそれぞれ囲んだ。  “フィス、ユデラ。爆破する。”  “こっちは準備OKだよ。”  “俺の方も問題ない。”  念話で伝えると指示したことは全て終えたらしく、他は排除しても問題無さそうだ。指定以外を全て範囲で爆破の魔法を発動した。魔法を発動した直後にヴィシルは結界で覆った4人をそのまま共に離れた森へと転移した。  転移した先には既に助け出された竜たちがいた。4種の色をした竜がそれぞれ1体ずつ。屋敷が大きくても手に入る竜種全てとなると1体ずつが限度だったらしい。  屋敷は脱出不可能な状態で、全て焼き尽くすまで消えない炎が全体をまだ焼いていた。おそらく魔術師あたりが抵抗を見せているのだろう。  ヴィシルは屋敷に囚われていた4体の竜たちと、4人の子供たちに状態異常回復を含めた回復魔法をかけた。  暫く異常が他にないかを確認することも含めて、ヴィシルはこのまま海へと行くことを決めた。人気のない海へと夜空の中移動し、岩場のあたりで洞窟もあったため、そこに留まることを決めた。  「君たちはギュシランに帰っても大丈夫だよ?」  ヴィシルが4体の竜たちに告げると、4体全ての竜が首を横に振った。  『俺たちは、毒に犯されている。このまま帰れば移してしまう可能性がある。だからこっちに残って貴方の手伝いをしたい。』  紅竜の言う毒というのは、ヴィシルが消しきれなかった薬品のことだろう。自分の体は自分でよくわかるということか。ヴィシルは彼らの申し出を受け入れることにした。  「ありがとう。」  ヴィシルはリャキナたちからもお礼を言われた。本当なら助からなかった彼女たちは、ヴィシルが行ったことで助かった。  「私たちも強くなって手伝いたい。きっと何処かに助けが必要な人たちがいると思うの。」  そう言ったリャキナに続き、レジカ、トリム、ボラクの3人も頭を下げてきた。4人で話し合った結果だろう。  「私たちもきっと薬品が残ってる。だから、みんなのいる安全な所には行けない。」  「暫くは移動しながら鍛練しよう。」  「やった!」  「強くなれるね!」  俺が受け入れると、4人の子供たちは笑顔でそれぞれ飛び上がったりして嬉しさを表現した。  “ヴィシル、今大丈夫か?”  “キピニアか。どうした?”  “セザリシオがヴィシルを探しに行くと言い出してる。”  “その必要はないと言っておいてくれ。暫く俺たちは戻れなくなった。急用が出来たとでも言っておいてくれるか?詳細はマーグも一緒に後で話すが、他の者へは伝えなくて良い。”  “そうか。わかった。セザリシオはどうにかしておく。”  キピニアからの念話は意味がわからなかった。なぜセザリシオが探しに行くと言い出したのか。ミュアドと仲良くやっているのではないのか?彼らのために自分だけ出てきた気遣いを有り難く思って欲しかった。  いっそのこと、この国の怪しい貴族を全て消してしまえばいいだろうか。そんなことを密かに思いながら、4人の子供たちを鍛えながら各地を転々としていった。
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