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「え?」  流れるように発せられた台詞に、健の顔を見返した。どこか気怠げに見える表情はいつもと変わらない。 (別れようって言った?)  私は続く言葉を待ちながら、無意識にストローを回す。透明なカップは、整理の付かない私の頭の中みたいに、白と茶色がぐちゃぐちゃに混じり合っている。 「まひる」  健は手の甲に顎を乗せたまま、半眼になって私の顔を見つめた。 「別れよう、俺ら。合わねーんだ、何つーの? 感覚? 考え方?」 「な、何言ってるの。そんなの当たり前でしょ。全く同じ人なんている訳ないし。いる方が怖いし」  思わず反論する。感覚や考え方が一緒じゃないと付き合えないなんておかしすぎる。人間が何十億もいるからって、感覚や考え方が一緒の人は片手だっていないはずだ。寧ろ違うからこそ付き合うんじゃないの。  健は下唇を突き出して大きく息を吐いた。長い前髪がひらひらと揺れる。 「そんなん分かってるって。そうじゃねぇよ。なんつーのかな。何か色々全部合わねぇんだよ。俺ら」 「色々全部って何」 「色々っつったら色々だよ」  正面の顔は細い眉を吊り上げて、イライラと吐き捨てるように言う。イライラされても困る。こっちだって意味が分かんなくてイライラするんだから。 「全然分かんないよ」  ぼそりと呟き俯くと、健はテーブルを強く叩いた。彼のお気に入りのスカルデザインのシルバーリングが、木製の天板にぶつかって鈍い音を立てる。近くに座っていたカップルがこちらに視線を向けた。 「そういうとこ。そこが合わねぇっつってんの分かんねぇかな」 「…………」 (そういうとこってどこよ)  声にならなかった反論を飲み込んで唇を噛み締める。バンドデビューを夢見ている健は感覚で生きる芸術家タイプで、相手を納得させるようなしっかりとした説明は苦手なのだ。
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