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(よし、出来た!)
無事に完成した見積を印刷し、百瀬さんに渡す。
「直しがあれば休み明けに言うから、今日はもうあがれ」
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、帰宅の準備をする。見積に続いてメール、社内サイトと次々にシステムを落とし、パソコンをシャットダウンした。カタログとノートを引き出しに仕舞ったら、今日も一日終了だ。
「ではお先に失礼します。お疲れ様でした」
「……ああ、お疲れ」
ロッカールームに向かい歩き出したところで「あらー、原さんも今上がり? 遅かったわね」とマグカップを持った大滝さんに声を掛けられた。
「お疲れ様です。大滝さんも今日は残業ですか」
「そうなのよー。最後の電話でハマっちゃって。ケンの迎えに行かなきゃいけないのに」
ケンという響きにドキリとする。あの健とは関係ないのは分かりきっているのだけれど、久しぶりに聞いた名前は心臓に悪い。
「ケン……くん?」
「そう。私の息子。もう高校生なんだけどね。明日部活の――野球の試合をね、何ヶ月かぶりにするからって、今日は遅くまで練習するんだってさ。そんな前日に付け焼き刃みたいなことしたって勝てないと思うんだけどね。アハハハハ」
大滝さんはまた顔の横で手のひらを振り下ろす。大きな声とおばさん然としたその行為がやたらとしっくりくる人だ。
「だから早く帰らなきゃ。原さんも早く帰りましょ」
「はい」
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