83人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「なるほど。パソコンを覗き込む顔が近かった、と」
「そこだけピックアップしないでください。その後の奇声の方が面白かったんですから」
「フフフ……。落ち着いている百瀬くんだから、ちょっとしたミスとかあるとざまあみろ感がでるわよね」
「そんな……」
「人の不幸は蜜の味ってね」
畳一畳ほどの狭い給湯室である。大滝さんはカップ一個洗うのに、スポンジに思いっきり洗剤を出して、もこもこと泡を立て始めた。この事務所は洗剤の減りが早そうだ。
私はふと思ったことを口に出した。
「あの眼鏡、度が合ってないんですかね?」
吊り上がったデザインのハーフリム。三白眼をパワーアップさせるそれ。
「あはは。どうかしらね」
「百瀬さんを思い出してみると、ディスプレイにも書類にも目が近い気がするんですよね」
立っているときはそんなことはないのに、座っているときは折角の長身がいつも丸まっている気がする。長身の人にありがちな猫背。勿体ない。
「流石に百瀬さんの眼鏡事情は分からないけれど、あの眼鏡以外を掛けているのは見たことないわね。この営業所に異動してきたときからずっとあれよ」
大量の泡をこれまた大量の水で洗い流しながら言う。シンクを叩く水の音が煩い。
最初のコメントを投稿しよう!