商人とドラゴンハンター

10/10
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
フランは包みを大事に仕舞う。 簡単に手に入ったように思えるが、自分一人では絶対に見つからなかった。 「さてフラン君。ここで、君に一つ教えておきたい事がある」 レオルがコホンとわざとらしく咳をする。 「何でしょう」 レオルは何も言わずドラゴンの腹に再度腕を突っ込んだ。 ゴトッ、ゴトッ、ゴトッ 地面に転がったのは丸石3つ。 「浄化」 呪文とともに顕れたのは、たった今フランが手にした宝と全く同じもの。 レオルが真面目腐り言う。 「こいつの正体は、ドラゴンの胃の中で魔力を取り込み凝固したもの」 「え? それは……」 「幻でも何でもないって事だ。消化しきれず残った胃の内容物。つまり、食べかすだ」 食べかす…… 「ちなみに体内にまだ1000個以上ある。討伐ごとザクザク採れるから、こっちでは土産物として安価で流通している」 「土産物」 脱力感に襲われフランはその場に膝をつく。くずおれた拍子に首のチェーンがシャラリと鳴った。 チェーンの先には金色のホイッスル。 それを目にしたレオルは、ハッと息を呑んだ。 「お前、それ」 「……あ、これ。気づきました?お揃いですよね。父の形見なんですけど」 レオルは驚きに固まっている。 「もしかして、これも土産物だとか言います?もう何を言われても驚きません」 「馬鹿! んなわけあるか!」 「でもこれ、鳴らないんです。父が吹いているのも見たことがないし」 これが異世界の物なら、父はどこで入手したのだろうか。 「……父親の、名は?」 「ライです。ライ・ジュレイド」 「……マジかよ」 今度はレオルがしゃがみこむ番だった。 「はぁ、アイツ……何してるのかと思えば、異世界で商人?! しかも婿養子かよ」 「レオルさん?」 レオルが何を言っているか分からない。 「ライが、時渡りに巻き込まれて死んだって?」 そう。 残ったのはこの笛だけだった。 「いや絶対ない。死んでない。アイツがそんなタマかよ」 レオルは立ち上がり、言った。 「話したろ。30年前自ら時渡りして消えた、とんでもない俺の兄貴。他の追随を許さない……ドラゴンハンターの最高峰だ」 「まさか、そんな筈は」 自分にとって父は、奔放とは掛け離れた誠実で実直な商人だった。 「これが幻の秘宝なんかじゃないと、当然分かった上でやっている。……いい根性してるだろ?」 レオルがフランにドラゴンドロップを手渡す。 手のひらで石が淡く光った。 「親子二代でかましてやれ。なぁ、甥っ子」 どうやらフランは、実に愉快だと笑んでいる、目の前の男の話を一度じっくり聞く必要があるようだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!