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「…………さて、どうするかなぁ」
ハチと二人きりになった柳は、パソコンへ向き直ると、ディスプレイに榎本の電子カルテを表示する。そこにはこの半年の榎本の診察内容が記されているが、柳が見つめるのはただ一か所――――そこには、『カロコン』と記されていた。
『カロコン』とは、『介助ロボットコンプレックス』の略だ。
榎本のように怪我により日常生活が困難となった者に貸し出される介助ロボット。その介助ロボットに対し異常な執着を見せることを『カロコン』と呼ぶ。
介助ロボットは患者の性格や生活パターンをすべて把握した上で行動する。さらに患者は怪我を負ったことにより様々な精神的ストレスを抱えているのだ、カロコンとなる者は少なくない。特にこのハチ――――J-08タイプは優秀で、その優秀さ故にカロコンを発症する者も多発していた。カロコンを発症した者の中には高額な介助ロボットを無理矢理買い取ろうとしたり、介助ロボットを連れて逃亡をはかったりした者までいるほどだ。そして質の悪いことに、介助ロボットの返却は患者の判断にゆだねられているため、病院側が介助ロボットを取り上げることはできない。
正直、今の榎本のカロコンの症状はまだ軽い。だから、先ほど榎本が言った『調子が悪い』をきっかけにカロコンから立ち直ってくれるのではないかと柳は願っている…………そう、わざとなのだ、ハチの『調子が悪い』は。柳がハチの設定をいじって、少しずつ榎本の要望を理解できないようにし、わざと違和感を感じさせているのだ。
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