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カロコン
「こんにちは榎本君。その後は調子はどう?ずいぶんと良くなったみたいだね」
やっぱり若い子は違うなぁ。
親子というよ兄弟と言った方がいい年下の榎本に対しそんなことを言った柳だが、榎本の表情は硬く強張ったままだ。
「どうかした?どこか痛む?」
全治半年という大怪我を負ったのだ、元通りにはなかなかいかないし、感覚の違いに戸惑っているのかもしれない。
そう考えた柳だが、榎本は「いえ」と小さくつぶやくと、ためらいがちに言う。
「怪我のことじゃなくて…………ハチのことなんです」
言った榎本はちらりと横へ視線を向ける。
榎本の視線につられるように柳もそちらを見れば、そこには若い女性が立っていた。
「前と同じで、まだハチの調子が悪いんです」
切羽詰まった様子で言う榎本にも、ハチと呼ばれた彼女は表情一つ変えない。
「調子、かぁ…………」
うーん、と、困った様子で考えるそぶりをする柳に、榎本は言葉を並べ立てる。
「だから、前と同じなんです!俺のしてほしいこととか言ったこととか、わかってくれないことがあるんです!それまでは完璧だったのに…………完璧に俺のことを、わかってくれていたのに…………」
最後は消え入りそうな弱々しい声だった。
ひざの上でぎゅっと握りしめられた榎本の手は、小さく震えていた。
そんな榎本に、柳は「いやぁ」と気のない返事をする。
「完璧って言ってもねぇ、あくまでハチは介助ロボットだから」
「でも、今まで本当に完璧だったんです!俺が怪我をしてから、完璧に支えてくれたのに、なんか、少しずつ食い違っていって…………」
震える声。そんな榎本に、柳は「うーん」と首を傾げる。
「そっかぁ…………どこか調子が悪いのかもしれないなぁ。榎本君に貸し出してからもう半年だからね」
半年という言葉に榎本ははっとするが、柳は相も変わらずのんびりとした口調で続ける。
「ハチも疲れてしまったのかもしれないね。でも、まぁ、君の傷が治ればハチの役目は終わりだから」
柳の言葉に榎本の表情があからさまに強張るが、柳はそれすら気にすることなく続ける。
「いい頃合いに返却手続きの方、よろしくね」
「…………はい」
重く沈んだ声でそう答えると、榎本は看護師の指示に従い、検査のために別室へと向かった。
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