◇ 第壱話:匣ノ怪 ◇ 

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 ◇ ◇ ◇  邪魔にならない、駅前ロータリーの隅。断続的にバスから吐き出される大量の人溜まりを避けるには、奥まったこの場所はちょうどいい。  壁に背をもたせかけながら、何をする訳でもなく静かに佇む。ぼうっと突っ立っているだけの俺は、本当に何も考えていなかった。 「おい、蒼波(あおば)! 聞いてんのか? 無視すんな!」  ひったくり顔負けの早業で、外を歩く時には欠かせない相棒が奪われた。引っこ抜かれるようにして、それはもう一瞬で、耳からイヤホンがすっぽ抜けていった。  最低限の生命活動を除いて。何もかも放棄していた俺の意識は、随分遠くまで散歩していたらしい。情報を遮断していたツケと云わんばかりに、空っぽの頭を満たそうと周りの情報が凄まじい勢いで流れ込んで来て、顔を顰める。  眉間に皺を寄せながら、閉じていただけの目蓋を持ち上げる。真正面で馬鹿デカい声を張り上げられ、周りの注目の的になった挙句、イヤホンまで奪い取られた。
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