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1雨
俺の名前は正月 一決して『しょうがつ いち』ではない。
人生は七転び八起きと言いましてーなんてどこぞの結婚披露宴で聞こえてきそうなフレーズを今まさに俺の恋人だったやつの結婚披露宴で聞いている。
俺の恋人だったやつの名前は山下 進。新郎である。
お気づきだろうが俺の恋愛対象は同性だ。
進との出会いは大学の新歓コンパだった。
なんとなーく気があって、なんとなーくつるんで過ごした。
ある日進が俺の部屋でゲームをしている時、セックスがしてみたいと言い出し、俺に挿入れたいと言ってきた。
いきなりの申し出に、こいつ頭大丈夫かよって思ったけど、「ダチとはセックスしない」って言ってやったら、
「じゃあ恋人ならいいんだな? 恋人になろう!」とあまりにもあっけらかんと言うもんだから何となーく頷いてしまって恋人関係をスタートさせた。
それから五年順調に付き合っていたはずだったんだけど、今年に入って「俺結婚するから別れて」と朝ごはんに卵焼き食べたいな」ってくらいの軽い調子でのたまった。
始まりもいきなりなら終わるのもいきなりだな、とその時の俺はそう思っただけだった。
好きだったのかと聞かれてもどうだったのか自分でもよく分からない。
分からないんだから悲しくもないし涙もでない。
なので、元恋人で現友人の新しい門出を祝おうと今日ここにいるわけだ。
まぁ最後に進は「お前の事本当に好きだったよ」と言ってくれたので、いいとしたんだ。
披露宴は意外にもいいものだった。
新婦の両親への手紙とか俺でも泣けてきちゃって、来てよかったな、と思った。
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