68、いつの間にか、私は

3/4
1043人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
「そうだ、ハチ!」 「ワゥ?」 「ありがとね!お母さん助けてくれて」 改めて頭を下げると、ハチは「当たり前ですっ!」と言うように「ワンッ!」と一度吠えた。 本当にうちにハチが来てくれて良かった。 虫垂炎の症状が軽かったとはいえ、放っておけばどんなことになっていたかわからない。 「森山家の恩人……恩犬だねぇ」 ワシャワシャと、顔をなで回すと、気持ち良さそうに目を細めるハチ。 そして「ついでにここもお願いしますっ」と体をずらす。 ご要望にお答えして、全身をふんだんにモフモフしていると、ハチと初めて会った時のことを思い出した。 あの時は、涼悟さんもいたなぁ。 ハチと戯れてた涼悟さんは、なかなかイケてた。 スーツでピシッとしてるのもいいんだけど、ハチと遊んでる姿の方が私は好きだなぁ。 ……好き、だなぁ。 ……。 「……クゥーン?」 不意に手を止めた私をハチが心配した。 大丈夫。 大したことない。 私は、私に戻っただけ。 前より少しだけいい生活をして、これから母と同じく自分の人生を生きる。 「クゥーン、クゥーン……」 ハチが体を寄せてきた。 「何?大丈夫だってば!」 そう言ってもハチは、スリスリと私に頬擦りし側から離れようとはしない。 一体どうしたっていうんだか……。 そう思って俯いた時、雫がポタリと床に落ちた。 雨漏り?まさか、雨なんて降ってない。 雫は何滴も何滴も落ちてくる。 どうしたんだろうと思い、上を確かめると、生暖かいものが頬を伝う。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!