この星の初めての子ども

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 “二人”の初めての子どもがいなくなった。いや、《カサヒウ》はこの星の初めての子どもだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――  かつては一つのエネルギー体だった“私”であったが、繁殖のために、身体をともなって“二つの個体”となってこの星に降り立った。  この星のはるか昔に存在していた生命の情報を得ることに私は成功し、片割れとなった個体との間に初めて生まれた子どもは、全身がふわふわしたもので覆われて、緑色で、腹の部分だけ明るい別の色が混じっていた。また、背中には平らな石のようなものが何枚か、一列になって生えていた。  この子どもに私は《カサヒウ》と名付けて、どこにいくのも一緒だった。この子が生まれる前までは、私は片割れの個体とずっと一緒にいたのだが、“彼”に対するものとはまったく異なる思いがやまずに、私は《カサヒウ》と離れることができなかった。  三年が経ち、私より大きくもなっていた《カサヒウ》が、忽然と姿を消したのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――  “彼女”と、脚がうまくは立たない《カサヒウ》は、あまり遠出をしなかった。“俺”は二人より少しだけ足を伸ばし……都合の良い場所を見つけた。  彼女がある日、ちょっとばかりいつもより目覚めるのが遅かった時に、俺は《カサヒウ》を連れ出した。そして、俺たちが住んでいた場所からそれほど遠くない洞窟に流れる川で、用意しておいた葦舟に乗せて流してやった。――あの川の先に何があるかは知らないが、《カサヒウ》は発声ができないし、水場で溺れかけた奴を彼女が助けていたのを俺は目撃し、泳げないと確信していた。  俺たちには無数のミッションが与えられている。三年という間、それがまったく滞っていたのだ。  いや、本当はそうじゃない。  《カサヒウ》の緑色でふわふわな何かに覆われた全身ってのも、背中の棘だかも、よく立たない脚も、物言わずに眠たそうなまなこを向けるのも、何もかもが「かわいい」と言ってそばを離れない彼女を見るたびに、俺は《カサヒウ》に対して、常に食った物を吐き出しそうになるような気分でいたのだ。――これでやっと終わる、何もかも元に戻るのだと思うと、言いようのない安堵感を覚えた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――  結局、《カサヒウ》は行方知れずということになった。  「俺たちはまだまだ、この星に必要なものを生み出さねばならないミッションがある」  「……わかってる」  再び、片割れの個体と二人きりになってしまった。  とりあえずは、自らの意志で動くことはできない個体を生むことに限定して、“私”は出産をしまくった。  《カサヒウ》を失った悲しみを忘れたかった。“彼”に対しても、かつてのような思いを抱くことはできなかった。――いつ終わるともわからないミッションの遂行は、終わることのない苦痛に思えてならなかった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!