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友達と恋人
裕司が彼女との1週間お試し同棲を終えたので、一緒に社長室で昼食を取る事もなくなり、俺は食堂で周防と食べるようになっていた。
彼は相変わらずボリューミーなものばかりを食べていたが、その体型は不思議と細身であり、俺はその疑問を素直に口にしていた。
「周防って沢山食べるのに痩せてるよな。なんかスポーツとかやってんの?」
俺が伊織特製だし巻き卵を口に入れると、周防は大盛りラーメンに入っていた厚切りチャーシュー肉に噛みつこうとして、一瞬動きを止めた。
「……一応、会社帰りとか週4くらいでジムに通ってるけど。後は犬飼ってるんで、朝夕で散歩がてらランニングとか」
「へぇ、凄いな。ちゃんと運動してんだ。あ、じゃあもしかして腹筋割れてる?」
「まぁ、そんなにバキバキじゃないけどね」
同じ歳でここまでストイックな人間を、俺は未だかつて知らない。裕司だって少し腹が出ているし、俺も同棲始めてから、なんだか腹周りがぷよぷよし始めてるのを見て見ぬふりをしていたのだ。やっぱり歳を取ると痩せにくいと言うし、俺も何か運動を始めた方が良いのかと真剣に悩み始めていたのだ。
「……俺もなんか始めようかな」
そう呟くと、周防が「それじゃあっ」と身を乗り出しては食い付いて来る。
「俺とジムに通ってみる?俺は1日おきに通ってるんだけど、運動終わった後は温泉とかサウナとかあるし……あ、あと受付けの子がめちゃくちゃ可愛い」
「あ、あー……そうなんだ」
えっと……この流れはちょっとマズイぞ。
可愛い女の子に興味が無い訳じゃないけど、俺にはもう心に決めた人が居る訳で。
ここは正直に言った方が良いと、俺は周防には悪いが断る事にした。
「えっと、お誘いは嬉しいんだけど……俺、恋人と同棲してるからさ、平日は出来るだけ早く家に帰りたいんだ。相手が年下で、すっごい寂しがり屋で……だから悪い」
そう謝ると、周防はキョトンとしたように「いや、無理に誘うつもりじゃ無いから良いけど」と俺の左手を指して言う。
「指輪してるから、てっきり既婚者かと。まだ結婚してないんだ?」
「ああ、コレは……婚約指輪みたいなもんかな。同棲もまだ始めたばかりだしね」
「そうなんだ」
どうやら周防は今の説明で納得してくれたようだが、俺は心のどこかでモヤモヤとしていた。
俺も伊織のように堂々と他人に恋人を紹介出来たら良いのだけど、男同士ともなると世間の目が気になってどうしても言葉を濁してしまうのだ。
……いつか、周防にも隠さないで伊織の話しが出来たら良いな。
俺はそんな事を思いながら、そう言う周防はどうなんだよ、と恋バナみたいな会話をしてその日の昼は盛り上がったのだった。
「……晴弘さん、マジで気を付けてよ。間違っても惚れられるような事はしないでね」
「大丈夫だって!そんな警戒しなくっても、周防は女の子が恋愛対象だし、俺に恋人が居るのも知ってるから!」
夕食後、ソファに座ってコーヒーを飲みながら俺達はそんな話しをしていた。
俺は会社の新しい友達が嬉しくて伊織に昼間の事を話していたのだが、彼は俺が取られるのではないかと心配しているようだった。そうやって素直に嫉妬してくれるところも可愛いが、もう少し信用してくれてもいいと思う。
「だいたい、俺ってそんなに男ばっかりに好かれるように見えてんの?普通にしてるつもりなんだけど」
隣りに座る伊織に寄り掛かりながらそう質問をすると、彼はチラリとコチラを見て少しだけ眉を寄せていた。
「……アンタは贔屓目無しに美人っすよ。あと、懐いたら可愛い事ばっかりやらかすから俺は性別関係無しに心配なの。……俺がなんで晴弘さんを好きになったのか、ちゃんと覚えてる?」
「え、えっと……それは……」
勿論、覚えているに決まっている。だけど伊織の場合は特殊であって、万人に共通する事では無い。それでも、彼も俺も元々は女の子が恋愛対象の人間で、そんな2人がこうして付き合ってるのだ。だから、何がどうなるのかは分からない。
俺は持っていたコーヒーのカップをテーブルに置くと、伊織の左腕にギュッと抱き着いた。そして彼を安心させる為にも、今後の方針を提示してみる。
「……分かったよ。気を付ける。……あと、なんかあったら絶対報告するし、当たり前だけど、お前を優先する。……これで満足か?」
ふて腐れ気味に見上げれば、伊織もふぅ、と息を吐いて同じようにカップを置いた。
「……別に、そこまでしなくても……大人には大人の付き合いがあるんだろ?その時は俺に遠慮せずにそっちを優先すれば良いじゃん。俺もアンタを信用してない訳じゃないし、ただ心配なだけだから」
そう言われて、前にそんな事で喧嘩した事もあったなぁと思い出す。
俺が篠崎と飲もうとした時に浮気を疑われて、大人がどうとか子供がどうとかくだらない事で言い合いになって……結局は伊織の方が先に謝ってくれたから、俺達は仲直りが出来たのだ。
……そうだよな。いつも俺の方が伊織を振り回しては我慢ばかりさせてるから、年上の俺がもっとしっかりとして、コイツを安心させてやらなきゃいけないんだ。
もうコイツから離れないって決めたんだから、ちゃんと誠意を示さなければ。
俺はゴクンと生唾を飲み込んで、口を開いた。
「伊織……」
「ん、なに?」
「信用してくれて……ありがとう。普通に嬉しいし。でも、俺は本当に伊織だけのものだからさ、……その……」
「うん?」
「……俺が伊織だけのものだって印、付けてくれる?」
パジャマの1番上のボタンを外し、人差指で胸元をはだけさせながら上目遣いでお願いする。と、伊織はビックリしたように目を見開き、俺の方に体重を掛けて来るのだ。
「……いいの?見えるとこに付けて」
「う、うん……。あ、でも、1個だけな?」
「ん……じゃあ、他のは見えないとこに付けてあげる」
「へ?ちょっ、そんなに沢山は……い、伊織さんっ!?聞いてる!?」
俺の意見はそれ以上通る事なく、そのままソファに押し倒されては、身体の至るところに熱烈なキスを貰ったのだった。
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