僕とバイクとユーレイの君

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 「天高く馬肥ゆる秋」という言葉がぴったりな気持ちのいい晴れの日。  僕――藤谷昂(ふじたにすばる)は、フルフェイスのヘルメットを手に、意気揚々と自宅マンションを出た。  身につけているのは、レザーパンツとライダースジャケット。背中にはアウトドアブランドのバックパック。  気分よく、スマートキーのリングを指に掛け、くるくると回す。 (今日は絶好のツーリング日和だ)  空を見上げ、思わず笑みが漏れる。  今、世の中には、新しい感染症が広がっている。感染者が増え、一時は、僕の住む大阪などの主要都市から外出が制限され、それは全国に広がり、人々は不自由な生活を余儀なくされた。  制限が解かれた後も自粛ムードが続き、レジャーや旅行に出かけるのが憚られていたものの、国が支援する旅行のキャンペーンが始まってから、次第にその雰囲気も和らいできた(とはいえ、油断はできない)。  職業柄、どうしても感染症にかかるわけにはいかなかった僕も、三密でない場所なら、そろそろ気晴らしに出かけてもいいんじゃないかと思い始め、今日は久しぶりにバイクに乗って遠出をすることにした。  ウキウキする足取りで、マンションの駐車場に向かう。  屋根付きのバイク置き場に入ると、同じように考えた人も多かったのか、いつもよりも停まっているバイクが少なかった。 「おー、隣の『883』も、『(ハヤブサ)』もどっか行ってる」  僕が借りている駐車スペースの右側は、いつもなら、アメリカのオートバイメーカー、ハーレーダビッドソンの『883』が停まっている。車種は違うが、ハーレーダビッドソンは、『ルパン三世』で峰不二子が乗っているバイクでもある。  左側は、スズキの『隼』というスポーツタイプのバイクだ。青い車体に、斜めに『隼』と文字が入っている。流線形の形がスタイリッシュで、時速300キロのスピードが出るパワフルなバイクだ。  両方とも、一介の会社員の若造にはなかなか手が出せない、百万円以上もするバイク。家賃6万円の賃貸マンションに停まっているのが不思議である。持ち主たちはよほどのバイク好きとみえる。  今日は2台とも出払っている。  駐車場にぽつんと残されているビッグスクーター、ヤマハの『マジェスティ』が僕の愛車。シンプルな白いボディは、機能美という感じで格好いい。まあ、値段は、ハーレーや『隼』よりかなり劣るけども。安く手に入れた中古だが、僕にとっては大切なバイクだ。
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