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「無意識だもの。心の底に真剣に好きな相手がいて、他の人と付き合うってかなり失礼な事でしょ?優しい三月がそんな事をしたの。忘れたくて消したくて他の人と付き合った。最初の松永さんは良い人できっと忘れられると思ってた。だけど暴力は始まりそれは香河さんより酷い物で、好きになりかけた彼は他の女と逃げた。次はお互いにそれ程好きじゃないと割り切った人。好きになると辛いからよね?分かります?あの子は二年間、ずっと香河さんが好きで苦しんで踠いて忘れ様と努力して生きて来たんです。」 付き合ってた頃、三月は愛情表現が希薄だと思っていた。 照れ屋だからか落ち着いているからか、愛しているなんて滅多に聞けないし、飲みに行っても誰となんて聞かない。 女性と写真を見せても飲み会たくさん参加だね、と言う位で、だからこそヤキモチを妬かせたくて菅井亜紀を連れて帰った。 そんな三月が実はずっとずっと……三月が怖かったから別れる事に納得したと言った菅井亜紀よりもずっと深い愛情のある女性だと気付いた。 「……もしかしたら三月は、今も壊れたままなのかもしれない。」 ビールグラスを手に哀しい顔をして、前を一点に見つめて陣が言う。 「……うん。松永さんを紹介された時、立ち直った、香河さんの事は忘れられたんだと思ってた。そうじゃなかった。松永さんが居なくなってそれに気付いたの。その時も三月は酷く落ち込んでいて何にも言えなかったし、そんなに好きなら香河さんに会いにいけば、とも言えない。だって…会いに行って元に戻ってまた暴力を振るわれたら意味がないもの。」 「……………ごめん。俺が全部悪いんだ。」 「そうよ?分かってるなら……これから三月の事だけを見てあげて。相手がどんな立場でも香河さんは三月を一番に考えて。相手が会ってくれなきゃ死ぬとかほざいてもスルー出来なきゃ三月が苦しむの。忘れないでね?」 紅葉の重い言葉を聞きながら、残りのビールを流し込んだ。 ボールペンをぎゅっと握り締め、紅葉に頭を下げてカウンターの上に多めにお金おを置いて店を後にした。 今直ぐにも会いたい気持ちを抑えて、三月の部屋の前まで行く。 窓を見上げてよく眠れていると良いなと、トボトボ歩いて会社に泊まる事にした。 あの部屋に今日は帰る気になれなかった。
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