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アテナの言動に不可解さや不安を抱きつつも、俺は人型バグと共に歩き出した。
俺は人型バグの少し後ろを付いていく。
「なあ、どこに向かってるんだ?」
あちらから話しかけてくることはないため、俺の方から話しかけてみる。
しかし答えは返ってこなかった。
何なら答えてくれるんだろうかと、いろいろと聞いてみる。
「あんた何者なんだよ?」
「アテナに言ったNo.ZEROって?」
「何を教えようとしてたんだよ?」
他にもいろいろと聞いてみたが、答えてくれることはなかった。
「せめてこれだけでも教えてくれよ。あんたのこと、なんて呼べばいい?」
どうせ答えないんだろうな、と思いながらも聞いてみた。
『…俺は…リクだ。』
しかし意外なことに返事をもらえた。
一切振り向くことなく、足を止めることも緩めることもなくだったが。
俺は今まで仲間と歩いてきたため、1人でもないのに無言で歩いていくのが嫌で、人型バグ改めリクに話しかけ続けた。
リクのことはわからないことが多いが、ルキウスが敵ではないと言っていたのだ。
俺はルキウスを信じている。
「歳、いくつなんだよ?」
「なんでバグに襲われてたんだ?」
「そもそもなんでバグみたいに黒いんだよ?」
やはり答えることはなかったが、それでも聞き続けた。
するとリクから深いため息が聞こえた。
『……うるさい。』
それから呆れた感じの入った呟きも。
『…No.ZEROに関しては今は話せない。黙っているという約束だしな。バグと呼ばれるものについてはこの後の"証拠"を見てから話してやろう。とにかくお前の知りたいことはこの後知ることができる。…俺のことについては』
リクはそこまで言って立ち止まり、振り返って俺を見る。
バグと同じように黒いので表情は見えない。
『記憶を一度見ただろう。』
表情も何も見えないのに、目があっているような気がした。
「…蟷螂型バグに襲われてた時のことか?…俺、あんまり覚えてないんだ。No.666がどうのとか言ってたのは覚えてるけど、それ以外は正直あんまり…。」
『………。そうか。』
リクはそれだけ言ってまた前を向いて歩き始めた。
そこからはなんとなく何も聞けなくなって無言で歩くことになった。
辺りの景色はずっと荒野が続いていた。
丘のように盛り上がった所を登りきった所でリクは足を止めた。
『あれだ。』
リクが指差したのは、周囲は荒れた何もない土地にドンと建っている建物だった。
『俺の案内は侵入口までだ。俺には俺の用事がある。』
建物裏にある少し土砂で埋まりかけた出入口。
リクはそれを土砂により歪みながらも抉じ開ける。
『餞別だ。』
リクはそう言って黒いローブとゴーグルを渡してきた。
『中に入ったら五階中央のメイン研究室を目指せ。そこには過去の研究や様々な資料がある。それがお前にとって"証拠"となるだろう。』
"研究"その言葉から察するに、あれは研究所ということだろうか。
ゲノムの言っていたことの証拠ということは、研究しているのは人造人間…。
見たくない、行きたくない。
しかし行かなければ死ぬらしいし、今までの違和感の正体やバグについてのことを知るためには行くしかない。
「…リク、ありがとう!」
『!!………早く行け。』
俺はそこでリクとも別れ、1人で行くこととなった。
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