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「この手紙がなくなればいいと思った」
そう言った依里は話し始めた。
あの日の真実を――。
5歳の頃の依里は、男の子に憧れていた。
でも、男の子みたいな格好をすると依里の両親は叱った。
依里の上には1つ違いのお兄さんがいるから、服を勝手に借りることは簡単だ。
だが、周りはそれを許さない。
だからこっそりお兄さんの服を幼稚園服の中に着て、皆が食事中の時にお手洗いに行き鏡で自分の姿を確認した。
こっそり帽子もお手洗いに持ってきた依里は、それを前に深く被って顔を隠す。
その姿が男の子っぽく見えることに嬉しくなっていたときだった。
「あなただあれ?」
偶然にもお手洗いに来たのが私だった。
顔が隠れているためわからなかった私に、依里は、りおと名乗った。
「りおくん? 同じ組にいたかな」
「うん。体が弱くて来れてないだけ」
この日からお手洗いでだけ、依里はりおくんとして私と話した。
勿論、その存在は誰も知らない。
何故私が先生達に話さなかったのかはわからないけど、内緒の友達みたいな関係が楽しかったのかもしれない。
そんな関係が数日続いて、ある日私は依里の家に遊びに行った。
その時、依里の部屋でりおくんの服を見つけてしまった。
「えりちゃん、りおくんのこと知ってるの?」
「うん! そう! そうなんだよね」
私は仲のいい依里がりおくんを知っていることが嬉しくなり、りおくんのことを沢山話した。
今まで誰にも話してこなかったからか、口から出るのはりおくんの名前ばかり。
「これは内緒なんだけどね。私りおくんが好きなんだ」
笑顔で伝えたその言葉は、幼い依里の胸にも痛く刺さった。
仲良しな友達を騙しているという罪悪感が幼いながらにあり、このまま騙し続けることは出来ないと思った。
そして依里はその日、私への手紙を書いた。
「そして私はあんたの前から姿を消した」
「そっか、そうだったんだね」
話されて思い出す幼い頃の記憶。
帽子から覗く癖っ毛。
あれは、依里と同じ。
幼い子供とは恐ろしいものだ。
今ならそんな騙しが通用するはずないのに、小さい頃は何でも信じてしまう。
「ごめん!」
頭を下げる依里は、あの頃の記憶を覚えていた。
それはきっと、罪悪感が残り続けたから。
好きと言われて本当の事が言いづらくなって、それでも騙したくない気持ちが小さい中で戦ったに違いない。
「あはは! 初恋のりおくんが依里だったとはね。小さい頃って恐ろしー」
怒ってなんていない。
だって、依里は私の大切な友達だから。
そしてりおくんも確かにいた。
落とした手紙は初恋とのお別れになった。
それでも、二人の関係が更に深まったからいいと思うのは、私が依里に似てきたからかもしれない。
─end─
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