消えた初恋

3/3
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「この手紙がなくなればいいと思った」  そう言った依里は話し始めた。  あの日の真実を――。  5歳の頃の依里は、男の子に憧れていた。  でも、男の子みたいな格好をすると依里の両親は叱った。  依里の上には1つ違いのお兄さんがいるから、服を勝手に借りることは簡単だ。  だが、周りはそれを許さない。  だからこっそりお兄さんの服を幼稚園服の中に着て、皆が食事中の時にお手洗いに行き鏡で自分の姿を確認した。  こっそり帽子もお手洗いに持ってきた依里は、それを前に深く被って顔を隠す。  その姿が男の子っぽく見えることに嬉しくなっていたときだった。 「あなただあれ?」  偶然にもお手洗いに来たのが私だった。  顔が隠れているためわからなかった私に、依里は、りおと名乗った。 「りおくん? 同じ組にいたかな」 「うん。体が弱くて来れてないだけ」  この日からお手洗いでだけ、依里はりおくんとして私と話した。  勿論、その存在は誰も知らない。  何故私が先生達に話さなかったのかはわからないけど、内緒の友達みたいな関係が楽しかったのかもしれない。  そんな関係が数日続いて、ある日私は依里の家に遊びに行った。  その時、依里の部屋でりおくんの服を見つけてしまった。 「えりちゃん、りおくんのこと知ってるの?」 「うん! そう! そうなんだよね」  私は仲のいい依里がりおくんを知っていることが嬉しくなり、りおくんのことを沢山話した。  今まで誰にも話してこなかったからか、口から出るのはりおくんの名前ばかり。 「これは内緒なんだけどね。私りおくんが好きなんだ」  笑顔で伝えたその言葉は、幼い依里の胸にも痛く刺さった。  仲良しな友達を騙しているという罪悪感が幼いながらにあり、このまま騙し続けることは出来ないと思った。  そして依里はその日、私への手紙を書いた。 「そして私はあんたの前から姿を消した」 「そっか、そうだったんだね」  話されて思い出す幼い頃の記憶。  帽子から覗く癖っ毛。  あれは、依里と同じ。  幼い子供とは恐ろしいものだ。  今ならそんな騙しが通用するはずないのに、小さい頃は何でも信じてしまう。 「ごめん!」  頭を下げる依里は、あの頃の記憶を覚えていた。  それはきっと、罪悪感が残り続けたから。  好きと言われて本当の事が言いづらくなって、それでも騙したくない気持ちが小さい中で戦ったに違いない。 「あはは! 初恋のりおくんが依里だったとはね。小さい頃って恐ろしー」  怒ってなんていない。  だって、依里は私の大切な友達だから。  そしてりおくんも確かにいた。  落とした手紙は初恋とのお別れになった。  それでも、二人の関係が更に深まったからいいと思うのは、私が依里に似てきたからかもしれない。 ─end─
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!