81人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
消えた初恋
小さい頃の話だ。
私がまだ5歳の頃、仲が良かった同い年の男の子から手紙を貰った。
それは今でも私の宝物で、いつも持ち歩いている。
でも、大きくなるにつれて記憶は薄れていき、あの頃読めていた筈の子供の文字が、今では全く読めない。
「あー、また見てる」
「うん。だって大切な物だから」
高校生になった私は、友達の依里と一緒にファミレスに来ていた。
料理が来るまで依里は携帯をいじっていたから、私は鞄から手帳を取り出し中に挟んでいた手紙を見てニヤニヤしていたら、それに気付いた依里がまたかといった様子でこちらを見ている。
無理もない。
私は時間があれば手帳を開いてこの手紙を眺めている。
小さい頃からの幼馴染である依里はうんざりするほど見てきただろう。
「アンタは一途だよね」
「もう顔も思い出せないんだけどね」
それでも手紙は私の元に確かにある。
この手紙を受け取った翌日から、その子はいなくなった。
今ではもう、会うことも諦めている片思い。
最初は探そうとして、両親や先生にも聞いたけど、そんな子は知らないという。
そんなはずないのに。
一緒の保育園で同じ組。
髪は少し癖っ毛だったのは今も微かに覚えている。
なのに、保育園の先生だけでなく両親もその子を知らない。
勿論依里も、その子のことは記憶になかった。
みんなが忘れた一人の男の子。
顔も名前も手紙の内容も、全て忘れてしまった。
覚えているのは、この手紙が大切だということ、髪が癖っ気で、その子が同じ組だったということだけ。
手紙ももうボロボロで、文字もところどころ汚れたり薄くなったりしている。
このまま思い出として大切にしようと今では思っていた。
その日の夜。
私は手帳を開いて血の気が引いた。
いつも無くさないようにと手帳に挟んで入れていた筈の手紙がなくなっている。
一体どこで落としたのだろうかと記憶を思い出す。
学校で一回開いて見た時はあった。
ファミレスに行ったときも。
その後は家に帰ったから、落としたとしたらファミレス。
時計を見ると夜の10時。
24時間営業のお店ではあるが、この時間に外に出るわけにも行かず、私はファミレスに電話をして今日居た席に落ちていないか確認してもらった。
結局見つからず、お店の人が言うには、もしかしたら掃除をしたときにゴミと思い処分してしまった恐れがあるとのこと。
流石にお店の人にゴミの中を探してもらうわけにもいかず、私は力なくお礼を伝え電話を切ると床に崩れ落ちるように座る。
このままでは明日の朝ゴミと一緒に処分されてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!