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「ご協力頂きありがとうございました。
怪我は………御二方ならばありませんよね。」
まだ生暖かく若干痙攣しているものもあるモンスターの死骸を踏み越えながら話しかけて来たのは、
スラッと背が高く化粧っ気はないが整った顔立ちをした女性。
返り血で顔半分を紅く染めていなければ幸せな家庭を築く若奥様にも見えるが、
噎せ返るような血の臭いにも全く動じないその姿は落ち着いた雰囲気も相まって少々以上に異様に映る。
「別にオレ等いらなかったんじゃねぇの?
素材採取班だけでいけただろ。」
「結果的にはそうでしたが、最近は見慣れない魔獣も増えていますので一応念のためです。」
工業都市カルタゴで様々な製品に加工されるモンスター素材の採集を一手に引き受ける素材採取班。
その素材採取班の班長(リーダー)を務める《千盾》のロア。
世界最高のハンターの一人であり、いずれ《不退転》に並び立つとも言われた女傑。
今は《不退転》亡き故に、永遠に届かぬ存在となってしまったが。
「確かに最近やけに強い新種の魔獣が増えてる気がするな。
お前明らかに棲息地違うだろって奴もいるし。
大将もその調査で暫く離れてたんだろ?」
「新種の魔獣と言うか、過去に存在した強力な魔獣だな。
強力なものの環境に適応出来ずに自然淘汰された、或いは人に害を成すものとして絶滅させられた魔獣だ。
実際にそれを見て来た師匠の証言だ、ボケて妄想の世界に行ってなけりゃ間違いねぇ。」
「大賢者キスティ様の言葉ならば信頼出来ますね。
私共の方でも過去の文献からある程度は予想していましたが、今程写真技術が発達していないため姿書きくらいしか残っていなくて。」
「何百年も生きてるのがおかしいんだわ。
しかし………………こいつは酷いな。
何があったら街半分が吹き飛ぶんだ?
鉄刃龍の仕業にしても、流石にここまでやるか?」
職人が詰める工房区とは反対側にある居住区。
かつて街の職人が自ら手掛けた家屋が並んでいたと思われるその場所は、
今は瓦礫とモンスターの死骸が転がるばかりであり街を囲む堅牢な外壁も崩れ落ち解放感のある景観を作り出していた。
まるで隕石が落下したかのような惨状であり、破壊の爪痕は街の付近から放射状に広がっていた。
「いえ、これは鉄刃龍の仕業ではありません。
向こう側の壁が崩れているのは鉄刃龍が街へ侵入した時のものですが、居住区を吹き飛ばしたのは工業都市カルタゴが禁忌として封印していた列車砲によるものです。」
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