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「こんな時代だ、皆生きるのに必死で他を気にしてる余裕なんて無いさ。
嫌な記憶しか思い出させないこれを捨てずに持っていてくれただけで有り難い。」
「悪夢みたいな出来事でしたけど、サガさんは私を救ってくれたヒーローでしたから……………」
「ヒーローか………………そうだな、この世界のために命を懸けた英雄だ。
あいつを知る人間は多くないが、君だけでも忘れないでいて欲しい。
外を自由に出歩けるこの世界は、あいつが護ってくれたものだって。」
「忘れません───絶対に。」
「ありがとう。
一人でも覚えていてくれる奴がいたら、あいつもきっと報われるから。」
もう一度ありがとうと頭を深く下げ、レオンハルトは逃げるように少女の家を出た。
まるで今の顔を誰かに見られたくないとでも言うかのように。
足早に村を出て、人目のない場所で少女から受け取った銃を取り出し握り締める。
「あの時お前に避難しろって言わなけりゃ───一緒に闘えって言ってれば、お前はまだ生きてたんかなぁ。
あの時………あの時………あぁ、オレはいつもこんな後悔ばかりだ。
上手く行った試しなんて数える程しかねぇ。」
『当然だろ、上手く行った時はそんなの一々覚えちゃいない。
上手く行かなかった時の事だけ記憶に残るもんだ。』
周囲に人はおらず、しかしレオンハルトには間近で話しているようにハッキリと聞こえる声。
その声の主は、レオンハルトの腰に提げられた剣であった。
「………………何だよ急に、最近大人しかったくせに。」
『テメェがいつまでも辛気臭い顔してるからだろ。
いつもは馬鹿みてぇにヘラヘラ笑ってるくせに、こっちまで気が滅入るぜ。』
「………………こんな状況で笑えるかよ。」
『だとしてもシャキッとしろや。
まだこれからだろうが。』
「あぁ、そう………だな。」
奇妙な相棒───紅血剣に宿ったかつての英雄の精神であるラウドに叱咤され、
サガの遺品をホルダーに納め気が向かないと言った足取りながらも歩き始める。
その背中には、暗い影のようなものが張り付いているように見えた。
死という深い暗がりから這い出た影が。
◆◆◆
「意外と難なく終わったな。」
「そりゃそうだぜ大将、こんだけの戦力が揃ってるんだからさ。
寧ろ完勝以外はオレ達の立つ瀬がないね。」
絨毯のように敷き詰められたモンスターの死骸。
数えるのも億劫な程夥しい数であるが、それだけの事をやってのけた者達は涼しい顔である。
疲労の色はなく、当然被害も0である。
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