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「何より……好きな人には、僕を覚えてほしくなかった。絶対、僕は消えてしまう。だから、確定された失恋を引きずってほしくなかった。
──実洋……僕のことは忘れてください」
直人が全てを諦めたような表情で言うので、実洋はムッとした感情を覚えた。
感情のままに言葉をぶつける。
「直人のバカッ! 忘れるわけがない……直人のエゴだよ、忘れてなんて。自己中だよ。
私は……私は、直人が好きなの。この恋を無駄じゃない、忘れない」
びゅうと強い風が吹き抜けた。実洋は乱れた髪を直さず、彼を見つめる。
実洋の脳裏にはたった四十九日、直人と過ごした日々が鮮明に残っている。
初めて会って、声をかけられ驚く直人。直人の死因を探すため走り回った日々。告白、デート、恋の悩み……そして──別れ。
たった一ヶ月と少しで、めまぐるしく人生は変わっていった。
それを貴重な体験と実洋は実感している。
すぅ、と直人は穏やかな笑みを湛えて、息を吸った。
「実洋……本当にありがとう、もう未練はない。実洋……大好きです」
「直人っ! 私も……大好きだよ」
ポロリ、と一粒の雫が実洋から零れた。
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