線香花火

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 まさにそれは不可抗力だった。ゆっくりと表情筋に適度な緊張が走っていく。ハイキングで詰まった息を無理やりに横隔膜の下まで押し込んでやる。彼女からは、地元にいたころにはなかった、目じりの小じわがはっきりと見えているのだろう。  「今日も綺麗だね」  息を整えながら、美佳をまっすぐ見据えて僕は言う。そう言うと、美佳はいつだって耳を赤くして「ありがとう」と言うのだ。  「久々に会えてよかった」  幕間の音楽が流れる。美佳に近づくと、彼女が吹いていたサクソフォンの音が確かに流れるのだ。
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