線香花火

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 美佳と会うのは一年ぶりだった。大学時代までは月に一度は会っていたが、就職して東京に住むようになってからは年に一度になってしまっていた。  家の近くで買っておいた花火を片手に気ままに歩みを進める。美佳のことだから少しくらい待たせても文句ひとつ言わずに迎えてくれるだろう。  夕焼けを背中に受けて、すっと前に影が伸びている。美佳とは空き地で影鬼なんかをよくやった。地元の悪い仲間たちと、日が落ちるまで必死に遊んだものだった。日が落ちる直前になると、ゲームにならないくらい影が長くなって、空き地の東側をいかにとるのかが闘いだった。他の悪友とは成人式以来会っていない。  風が心地よく耳元を吹き抜ける。森が誰かを呼んで騒いでいた。  夕方のこの時間になるともう人通りはなく、都会に慣れきってしまった僕にとっては、この広々とした空間は一人で歩くにはやや不気味であった。  区画を表示する案内板があったが、もう何度も通い慣れた場所だった。今いる坂をまっすぐ上がっていって、突き当りのところを左に曲がったすぐそこに、いつだって彼女は僕を待ってくれていた。坂の中腹からでも、頭くらいは見えていてもおかしくはないのだが、どこにいるのかはっきりとはわからなかった。
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