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「えっ、ちょっと、待って・・・」
「可愛いと思うけど。俺と梢の子ども」
「・・・可愛いかも知れないけど。ちょっと早いかなって」
梢はゆっくりと義隆から体を離し、困ったように笑って見せた。結婚するかどうかもまだハッキリさせてないのに、いきなり子ども発言が出てくるなんて思ってもみなかった。きっと仲の良い茂晴がパパになって幸せそうにしてるのを見て、影響されたのだろう。義隆にはそういう単純な所がある。そしてそれは、義隆の良いところでもあり、悪いところでもあった。
「そっか、ごめん。順番違ったよね?」
「え?」
「梢、結婚しよう」
「ん?待って。それって・・・プロポーズ?」
「そうだけど?」
「え?今なの?」
「うん。だって今、梢とずっと一緒にいたいなって思って、梢との子どもが欲しいなってすごく思ったから」
そう言って腰に手を回してくる義隆は、上下スエット姿だ。場所は義隆の家で、BGMはつけっぱなしのオンラインゲームの音楽。
梢はあたりを見渡して、少し悲しくなってしまった。ベタかも知れないが、プロポーズはオシャレなレストランとかもっと雰囲気がある場所で、サプライズで指輪を渡されることを夢見ていた。こんなふと思い付いたように、家で急に言われるなんて想像してなかったのだ。
「梢、結婚しよ?」
「・・・保留」
気付いたら、そう答えていた。ワガママかも知れないが、ここでオッケーを出したくないと思ってしまった。
「保留?どうして?」
当然、オッケーを貰えるものだと思っていた義隆は急に焦った顔をする。
「そんな急に思い付きでプロポーズしないで。もっとちゃんとしたプロポーズして欲しい」
「夜景の見えるオシャレなレストランとかで、指輪パカってやるやつ?」
「・・・うん、まぁ、そんな感じ?」
「そうだよなぁ、ごめん。俺、正直、シゲさんが羨ましくなっちゃって。ずっと好きだった人と結婚して、子ども産まれるなんていいなぁって。それで少し焦っちゃった」
「よそはよそ、うちはうちだよな」なんて言って義隆は笑ってたが、梢は胸が痛んだ。
たとえ今、オシャレなレストランで指輪を渡されても、結婚すると喜んで頷けない。可愛い子どもを作ろうって言ってあげられない。義隆とはいずれ結婚したいと思っているが、それは梢にとって明らかに今ではないのだ。そんなことを考えていたら、切なくて泣きそうになってしまった。
「梢、他にももっと言いたいことあるんでしょ?」
そんな梢の様子を見て、義隆はすかさず声を掛けた。些細なすれ違いで一度別れていた分、違和感を感じた時はお互いに流さないでちゃんと話そうと決めていた。それがあの頃とは違う、二人が大人になった部分だった。
「うん・・・私、正直、まだ・・・結婚とか子どもとか考えられなくて」
「・・・そっか」
「今、仕事が楽しいの。今は・・・もっともっと仕事頑張って、沢山の人が綺麗になれるコスメを作りたい。だから結婚は、もう少し待って欲しい」
「やっぱり、梢は今の会社に行って良かったね。そんなにやりがいのある仕事ができるのは、いい事だよ。頑張って」
「ごめんね・・・」
「なんで謝るの?」
「だって義隆は、今、子ども欲しいんでしょ?」
「俺のは、シゲさんの見て、ちょっと焦っただけだって。俺こそごめんね?プレッシャー、かけちゃったよね?俺達は俺達のペースがあるからさ。もうずっと一緒にいるのは変わらないでしょ?だから結婚なんて、いつでも良いんだよ」
義隆はそう言ってくれたが、梢はどうしても申し訳ない気持ちを拭い切れなかった。
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