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第103話
だが、言われてみれば、確かにその通りだ。
自分が今夜見た事や、多聞の嫌がらせに等しい所行を、赤坂は今の今まで知らなかった。
その赤坂が、多聞の肩を持つ謂われもない。
神巫は考え込んでしまった。
こちらに手落ちがあるとしたら、先にそれをフォローしてからでなくては多聞を糾弾する事は出来ない。
それにはまず、市ヶ谷の言っていた「見落としている穴」がなんなのか、見つけなければならない。
堂々巡りで、最初の地点に戻ってきたような気分だった。
「俺、どーしたらいーんすかねぇ?!」
思わず、ほとんど悲鳴に近いような書き込みをしてしまった。
もちろん、そんな事を言われても赤坂が一方的に困る事も、解っていたが。
「ん〜、俺はプログラムのコトなんてぜんっぜん! ワカンナイけど。……いっそハッキリとタロウサンに訊ねたらどーすか(;^_^A」
「アドバイスどうも」
答えに窮した赤坂の返事は、1番聞きたくない言葉だったが。
しかし、答えのない質問を投げかけた自分が悪い事も解っていたから、赤坂を責める訳にも行かない。
それでもやっぱり不快感は拭えなかったので、神巫はそれで赤坂とのメッセは切り上げにした。
ハッキリした解決は何も見えず、残ったのは疑問と不満だけである。
「あ〜あ! どうしろって言うンだよ!」
投げ遣りな気分でドタリと仰向けに倒れ、神巫は盛大な溜息を吐いた。
かなりの追い込まれ気分で、本音を言えば柊一に相談してしまいたいと思っている。
しかし。
神巫はどうしても、柊一を頼ってはダメだと決めていた。
それは先日、柊一に言った通り「多聞が自分を認めない」というのも確かにあるが、それ以上に柊一に一人前として認めて貰う為に、それはどうしても譲れない。
確かに自分はまだ全く未熟だと、それは否定しきれない部分があると、解っている。
だが柊一は、その評価をそのままプライベートの付き合いにも反映させていて、神巫を決して対等に扱ってはくれない。
神巫にとって、それは多聞に対する不満よりも遥かに大きな、そして直ぐにも解決したい不満だったのだ。
柊一が神巫を恋人扱いしない最大の理由は、そこにあると思う。
同性同士だからだ…と柊一は言うし、確かにそれに関しての考え方が「石頭」と呼ぶに値するほどの堅さだから、理由の一部にはなるが。
しかし、結局そこで神巫を一人前と認識していない為に、ただ甘やかして許容している限りは、それを恋人扱いするようにはならないだろう。
ただ、子供のワガママを甘やかして許容するのではなくて、相手を意識して、大人としてワガママを許容出来なくなって、それでもなお愛情から神巫を受け入れてくれたら。
そうなったら、同性がどうした…なんて、言っていられなくなる。
まず、柊一に一人前だと認めて貰う。
そこに行き着かない限り、自分と柊一の関係はこれ以上先に進む事は出来ない。
神巫はそれを痛感していたのだ。
行き詰まって柊一に泣きつけば、事態は簡単に打破される。
だがそれをやったら、柊一は神巫をまだまだだと思ってしまうから。
なにがなんでも、柊一の手を借りずに仕事を成し遂げなければならないと、神巫は思っていたのだ。
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