雨のなか傘をさす。

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「入れよ」  幼馴染みのその彼は当たり前の様に傘を差し出す、大雨とは呼べないまでも濡れて帰るには本降りと呼べるその雨はその彼との微妙な距離感を生み出していた。  季節が冬へと変わろうとするその日の夕暮れ、コンビニでの雨宿りはもう諦める時間だった。  ……チッ   「何で野郎の傘に入らにゃならんのだ」 俺[吾妻神郷(あがつまじんご)]は肩を落としそう愚痴ると幼馴染みの彼[小笠原伊月(おがさわらいつき)]は軽く笑って続ける。 「同じアパートのとなり同士だからだろ」  俺はドンと伊月のブレザーの肩に自分の肩をぶつけ、ぶっきらぼうな態度でその安っぽいビニール傘に入った。 「(めし)どうする?」 「喰うけど」  お前の部屋で夕飯(ゆうめし)食べますの意だ。 「焼きそばでいいよな」 「またかよ!」  最近2日に一度は焼きそばだ。 「仕方ないだろ金無いんだし」  伊月が毎日焼きそばに成らないよう努力しているのは知っている。 「俺も金、出してんだろ」  食費は折半のきまりだ。 「この前の焼き肉が痛かったな……」 「うう、あれはどうしても焼き肉喰いたかっんだよ……」 「悪いな弟達が遊びに来て……」 「ふざけんな!俺が喰いたかったんだよ!」  先週の事だ、隣で傘を持ち若干その傘を俺の方へと寄せ気を遣うこの伊月の年の離れた弟達、3人の悪ガキ供が「にーちゃん会いに来た!」とアパートに押し掛け好き放題遊び倒した挙げ句、昼飯(ひるめし)何にするの問いに。 「「「焼き肉!!!」」」  と即答したのだ。 「ごめん、ウチは楽しい時は焼き肉なんだ」 「ごめんじゃねー、俺も……」  俺も、と言いかけてやめる、長い付き合いだ俺もその時が楽しいと思ったのも事実、伊月が迷惑かけたと思ってるのも事実、そして肉の無い焼きそばが続いてんのも事実だ。 「解ってる」 「解ってんならいいよ……」  雨が小降りに成って来た。 「もう少し待てば男2人で傘しなくて良かったな神郷」 「何でだよ!」 「ん?」 「いや何でもねーよ!!」  チッ  昼と夜の間が過ぎ、日は落ちるも俺の顔には夕日が掛かったような赤みがさしていた。  伊月の顔がまともに見れない……
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