プロローグ

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プロローグ

「なんだ、この惨状は。野盗が入ったようではないか」  屋敷に入るなり、男が言った。  甲冑に身を包み、手には抜き身の剣。 「野盗は貴様だろう、カドマス」  答えた男はこの屋敷の主で、その服は血で真っ赤に染まっていた。名をパトリックという。  カドマスはふっと笑う。 「たとえ俺が野盗だとしても、妻子までは殺さぬよ」  パトリックの傍らには血まみれの女性二人が倒れている。この男の妻子だ。  妻は首を剣で引き裂かれ、娘の胸にはナイフが突き刺さったままになっている。パトリックが殺したようだった。 「かようなことをせずとも、聖剣さえ渡せば危害は加えなかったものを」 「堂々とウソをつくな。俺を殺して聖剣を奪い、さらし者にして辱めたあげく、口封じするのだろう?」  カドマスは鼻で笑った。  まさにその通り。分かっているならば、もはや話すことはないと思ったのである。 「さっさと聖剣をよこせ。もはや逃げ場はない」  カドマスの配下がパトリックを取り囲む。 「誰が渡すものか。欲しければ奪ってみるがよい」  パトリックは腰に下げていた剣を抜く。  無骨な刀身をしているが、柄には華美な装飾が施されていた。 「ほう。それが聖剣か」  パトリックはカドマスに剣を向けるが、カドマスは剣を抜かなかった。 「俺は決闘をしに来たわけではないのだよ」 「なに?」  カドマスが顎で合図すると、配下の兵士たちが男に斬りかかった。  パトリックはそれを剣で受けるが、続いてやってきた兵士に背後から斬りつけられてしまう。 「ぐわっ!?」  血しぶきが上がり、パトリックは地面に倒れ込む。 「無様だな」  カドマスはゆっくりパトリックに歩み寄り、剣の握られた腕を蹴り飛ばす。 「ぐっ……」  そして転がった剣を拾い上げ、刀身をなめるように眺めた。 「古くさいが、それが聖剣である証か。しかし……名誉騎士の最期がこれとはな」  パトリックを一瞥し、背を向けて歩き出す。 「ま、待て……」  パトリックに答えることなく、開け放たれたままになっている扉へと歩み出す。そして、指を振って合図する。  血を這いつくばるその背に、いくつもの剣が突き立てられた。
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