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天才は実在する。
それが悲しいことなのか嬉しいことなのかは定かではないが、ツチノコやネッシーと違って確実に存在する。
僕の親友、三明解人は天才だ。
彼の才能は、特別に何かにずば抜けて特化したものではない。
しかし、それは紛れもなく天からの贈り物だった。
「100回もいらない。3回でいい」
これは彼の言葉だ。
人が100回やってできることを、彼は3回でできるようになる。
たとえば、キャベツの千切り。
100回やれば大体の人が一定のスピードで幅を揃えて切ることができるようになる。
しかし彼は3回練習するだけで、そのレベルに到達するのだ。
ずば抜けて何かができるわけじゃない。それでも、ずば抜けたスピードで大体のことができるようになる。
天才オールラウンダー・三明解人。
しかし、やはり天は人に二物を与えなかった。
彼はその才能を得る代わりに、遠慮や気遣い、尊敬や忖度という感情の一切を失くしてしまったのだ。
つまり相当なひねくれ者になってしまったのである。
「誰かをひれ伏せさせる時、3回まわってワンと言わせることがあるだろう。あれは、凡人は3回まわってもワンと言うことくらいしかできないのだ、と自分の無力を思い知らせるための行為だ。しかし残念ながら私は違う。私は3回まわれば般若心経くらい歌えるようになる」
意味がわからない。
意味がわからないが、なんだか馬鹿にされているのはわかる。
まあつまりこんなことを平気で大声で言うくらいはおかしなやつであるということだ。
さて、そんな天才にはなんとガールフレンドがいる。
終野結子。僕と解人のクラスメイトだ。
この二人が付き合うまでにそれはそれは色々なことがあった。
解人と終野が恋人関係にあるのはもちろん彼の告白を彼女がOKしたからなのだが、そこには他でもない僕の活躍も少なからずあった。ほとんど僕のおかげと言ってもいい。
話せば長くなるのでここでは割愛させていただくが、解人が僕に助けを求め、僕が華麗に解決に導いたことで今の二人はあると言えるだろう。
そう、つまり僕は天才にすら頼られてしまう凡人なのさ。
「問也、相談があるのだが」
ほら、まただ。
これで僕が嘘を吐いてないってことがわかっただろう?
まったく困ったもんだよな。僕があまりにも頼りになるからって世に類を見ない天才にまで頼られちゃってさ、いやほんと大変だぜ。
「終野と放課後デートをしたいのだが」
「勝手にしてろよリア充が」
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