外せよ!

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 前を歩いていた女性のカバンから折りたたみ傘が落ちた。  かたりと硬いものかぶつかり合う音がした。  立ち止まって拾うのかと思いきや女性はそのまま歩いていく。 「すいません。傘落としましたよ」  私の声がけを無視してスタスタと歩いていく。  いらない傘なのだろうか。  でも、持ち歩いているのだからそんなことはないだろう。  私はその傘を拾い上げ小走りで女性の元に向かった。 「すいません。傘落としましたよ」  後ろから声をかけても振り向かない。  新手のキャッチだと思われているのか。  肩をトントンと叩くとようやく立ち止まった。 「すいません。傘落としましたよ」  もう三度目のセリフだ。 「あっ、ありがとうございます」  女性は耳から無線イヤホンを取った。  私の言った三度のセリフは一度も聞かれていなかったようだ。
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