鈍感ボーイの場合

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鈍感ボーイの場合

 カフェでのアルバイト中、からんころんとドアチャイムが鳴って、お客さんが入って来た。 「いらっしゃいませ」  いつものように挨拶をしながら扉の方を見ると、そこに居たのは同じクラスの鈴代さん。  僕はげげげっ……と思った。  鈴代さんといえば、クラスメートの間で関わらない方がいい人として有名だ。  何かを睨んでいるような瞳。  常に腕を前に組んで、なんか威張っているようなポーズ。  鈴代さんを初めて見る人でも、彼女に怖い人だなという印象を持つだろう。    (むすっ)  席についても学校での様子と同じく、やはり不機嫌そうな鈴代さん。  僕をクラスメートだって認識はしてくれてる……みたい、かな?  さあ、注文を訊かないと……!  ちょっと怖いけれど……  ここは勇気を出して大きな声で! 「いらっしゃいませ!ご注文はお決まり……」  (ジロリッ)  ひええぇ!  話しかけた瞬間に、鈴代さんは目を大きく見開いて僕の顔を見つめてきた。  僕、威嚇されてる!? 「……お、お決まり次第卓上のベルでお呼びになってくださいぃぃぃ!」  逃げるようにそそくさとカウンターの後ろへ戻る。  うう……やはり怖い……  話しかけ方が悪かったかなぁ  もう少し、へりくだった感じで接するべきだった気がする……  絶対嫌われた……  クラスの男子の一人から憎たらしい奴に格下げされた……  もう終わりだ……  明日学校に行ったら、女子の間で僕の悪評が飛び交っているんだ……  僕は【変なところで謎のハイテンションを発揮するサイコパス】というレッテルと共に、これからの人生を生きていかなければならないんだ……  絶望だ…… チリンチリン……  ほら幻聴もしてきた…… チリンチリンチリンチリン……  周りからの評価に呑まれて、当人の人間性も変わってしまう…… ちりんちりんちりんちりん……  大坂冬の陣で徳川軍が大坂城の外堀を埋めて夏の陣での完全勝利に近づいたのと同じ様に、僕の人格もこれを機にだんだんと腐っていくんだ…… ちりん!ちりん!ちりん!ちりん!  ってこれ呼び出しのベルじゃん! 
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