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「そうですね。たった一人、そんな男性がいてくれたら。それで私も自分を解放したいと思います」
「うん。たったひとりだけいると、全然違うよ」
いつもの爽やかな笑み。その幸せそうな笑みは、きっと最愛の奥様と強く結ばれているからなのだろうと千夏は思った。
公園広場の壁に向かって、ひとしきり球を投げていた河野君が戻ってくる。
「いいですよ」
「一球だけね」
「わかっています。じゃあ、俺。あのあたりに行きます。ちょうどあそこがライトのポジションだと思いますから。千夏さんも準備が出来たら手を挙げてくださいね」
「わかったわ」
二人で段取りを決め、うなずき合う。
ネクタイを外した白いシャツ姿の河野君が背を向ける。ゆったりと歩いて落ち着いている彼を見て、千夏も地面に膝をつき構えた。
そして佐川課長が千夏の背後に、アンパイヤのようにして控える。
「練習なんてしてないよね、落合さん」
「ええ。見よう見まねです」
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