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カタン、カタン。
木枯らしが吹いています。
「外は寒そうねぇ」
菊雄さんが窓のほうを見て呟きました。
「暖かくなったら、お花見しましょうよ、三人で」
先生が小さく呟きます。
「花見か。いいなぁ・・・・」
菊雄さんは、布団の上で先生とわたくしの手に自分の手を重ねて仰いました。
「三人の約束よ。春になったら三人揃ってお花見するの。庭の満開の桜の下で、私が舞い踊るところを想像してごらんなさいな。なんて雅なんでしょう!」
わたくしと先生は笑いました。
「雅と自分で仰るなんて。さすが菊雄さんだわ」
「誰も言ってくれないんだもの。せめて自分で褒めなくちゃ。ね?先生?」
菊雄さんが先生の顔を覗き込みます。
先生は目を閉じたまま、口を開けて微かに息をしていました。
少し、苦しそうです。
「菊ちゃん、何か読んで差し上げて」
「何か?」
「初恋、覚えてる?」
「ええ。それは、もちろん・・・・」
「先生に聞かせてあげて」
菊雄さんの瞳がみるみる紅く染まっていきます。
ハァ、ハァ、と先生の呼吸が荒くなってきました。
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