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手紙
俺にはその人のことを考えると心が震え、泣きたくなるほど好きな人がいて、その人は今、俺の隣で優しい寝息をたてている。
さっきまで、あんなに俺を愛してくれていた人だけど、貴方の愛してる人は俺じゃない。
俺は貴方が記憶をなくした事をいいことに、貴方があいつを… 、貴方が薫を誰より愛していた事をなかった事にして、貴方の最愛の人は俺だと信じ込ませたんだ。
はじめは、それでも貴方が欲しかった。
でも、今は?
貴方が俺を愛しい人を見るような瞳で見てくれる度、俺は思い出すんだ。
貴方が薫に向けていた、瞳と優しい視線を…。
貴方の愛しい人は、俺じゃない。
俺じゃないけど、夢見たかったんだ。
一瞬だけでも…
だけど、それも今日で終わりにします。
『神谷先輩
今まで俺は、先輩に嘘をついていました。
先輩が愛した人は俺ではありません。
先輩の隣で息を引き取った、長谷部薫です。
先輩が事故と薫を亡くしたショックで、記憶をなくした事を俺は利用して、先輩をずっと騙していました。
先輩はきっと激怒されるでしょうね。
多分それは、薫も同じで…
こんなことで許されるとは思っていませんが、俺は、もう2人の前には現れません。
先輩。
今まで、本当にごめんなさい…
ーー松原 晶ーー 』
晶は手紙を封筒に入れ、まだ眠る神谷の枕元にそっと置いた。そして最後に、神谷の少しこしがあり硬い黒髪をそっと撫でると、バックを手に、部屋を後にした。
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