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……そしてウッチーは
アリサちゃんの実家でご挨拶をした時の話をする。
二人のことをずっと反対していた
アリサちゃんのお兄さんを納得させたのは
ウッチーの腹の決め方でもあり
アリサちゃんのおじいさんの言葉だったようだ。
土地に根付いた工芸品の職人であるおじいさんは
大変な昔気質、そして頑固だそうで
アリサちゃんの大学受験や上京の際にも
説得に骨が折れたという。
ウッチーは、自身の出生について
『幼少時に母を亡くした後は実の父親と縁遠く、あたたかな家族の肖像がありません。普通の子供ならば与えられ、当たり前に持っているものが欠けている人間です。しかし母方の祖父が私に人生を教え、分けてくれました』
と、打ち明けたらしい。
そして、
「彼女を見守り、導く立場であるにも関わらず、彼女のやさしさや笑顔に惹かれて、その側に在りたいと思うようになりました。私も何かを与えられる人間になりたい。ご家族が大切にしてこられたアリサさんが、これからも変わらず笑顔でいられるよう、大事にします」
迷いのない言葉を
おじいさんは黙って聞いた後で
「……時代は違うけれど自分も親兄弟を亡くしてな。酷い時代を自力で必死に生きた。だからかアンタのような人間を仲間のように思える」
煙草に火をつけながら
心の扉を開くような表情で語った彼に
ウッチーは亡くなった祖父の面影を重ねたようだった。
「リョウさん、あんたの下で働くようになってから、あの子は変わった。東京から帰ってくる度に人として大きくなっているのが分かった。だから俺はいつか、あんたに会って、一緒に酒でも飲んでみたいと思っていたよ。それがこうして嫁に貰いに来るなんてな……人の縁は分かんねぇもんだよなぁ。実際に会って、こうして話をして俺は思うよ。美醜じゃなく、面構えが良い。特に目が気に入った。自分の力で生きてきた男の目をしてる。そういう目をした奴は今じゃ滅多にいないからな」
おじいさんの豪快に笑う声や
猫背気味の背中、職人の使い込んだ手を見て
懐かしく思ったと、ウッチーは語った。
「あんた、自分を欠けているというけどよ。それはこれから満ちていくものじゃねぇのか」
『失ったもの』ではなく、『満ちていくもの』として
ウッチーの人生を正面から受け入れた背中に
お兄さんがけち臭い事を言えるはずもなく。
ちなみにアリサちゃんのご両親は
『そうなったら良いなぁ』と
ずっと思っていたらしい。
アリサちゃんが話す、身の回りの話のなかで
『内野さん』は特別で
教えられ、守られ、磨かれて
とても大切にされている様子が
伝わってきたからだ、という。
ウッチーに出逢ってからの娘の成長に
目を細めながら、静かに期待していたと聞いて
ポーカーフェイスのウッチーも
流石にその得意技を保てず、
耳を赤くして照れてしまったようだった。
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