眩い木陰

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「この木の陰で聞く、ページをめくる音が好きなんだよ」  クリフは、広い葉をつけた名前の分からない大きな木にするりと登って僕を見下ろすと「それで?」と適当に続きを促した。寄宿舎の庭にある小さな森は、いつもと変わらないようすで風を受けてさらさら言いながら揺れている。  僕はしおりを挟んで本を閉じた。こいつが来るといつもこうだ。 「だから、僕は望んでここに一人でいるんだって言いたいの。読書の邪魔をするな」 「邪魔してねーじゃん。お前が勝手に読むのやめたんだろ、のんびり君」 「その呼び方やめろ。僕の名前はスロウだ。LじゃなくてRだし、Eがある」  適当に持ってきていた三冊の本を抱えて立つと、隣の木の下に移動して座る。するとクリフがサルみたいにぴょんと飛んで、僕のもたれる木に移ってきた。太い枝を両足で挟んで、ぐるりと頭を下に向けると横目で僕を見る。 「そうやってあいつらにも言い返せばいいのに。黙ってこんなとこいないでさあ」 「いいんだよ。あんなのにいちいち言い返してたら、また僕が先生に注意される」 「先生と話すんのが嫌っつーこと?」  クリフは逆さまになったままで、下に流れる自分の長い髪を指でいじった。僕のぱっとしない栗色の髪と違ってきれいなブロンドは、白い指の間を水みたいに流れていく。 「ちがう。先生に呼び出されたら、あいつらがもっと喜ぶんだよ。面倒なことはしたくない」 「で、毎日こそこそと読書ごっこしてんのか」 「ごっこじゃない! お前こそ、毎日毎日僕に付きまとって楽しいかよ。知らねえのか、木に登んのも指導対象なんだぞ」 「俺、お前と違って先生と話すの好きだからなー。別に見つかってもいいや」  あっけらかんとそう言って、クリフは勢いをつけると体を起こして木の上に戻った。何か言ってやろうと思ったけどやめて、もう一度本を開く。こいつには、何を言ったって効きやしない。 「お前、先生ん中で誰が一番好きー? 俺はレオのおっちゃん」 「はあ? 急になんだよ」
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