朝を待つ

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 あなたはずっと、朝を待っていたのかもしれない。  朝待ち宵。  透けていくその言葉を心の中で反芻しながら、遠くの空に生まれ行く朝焼けを見ていた。  施設のバルコニーで、同じベンチに腰掛けるあなたを見やると、伸ばしっぱなしの髪が無風の中で微かに揺れる。それは東雲の空に色彩を乗せていく絵筆のように見えて、すこし哀しかった。こんな中でもあなたの髪は白いままなのだな、とひとり、心の中でつぶやく。  初めて会った時から、彼の髪は白かった。なにが原因で、いつからそうなったのかは知らないけれど、ロマンスグレーというにはやぼったくて、銀髪というには頼りない、かよわくて素朴なその色が、私は好きだと思った。  毛束をつまむと、先だけが朝焼けの光に染まって黄金色に艶めく。その色合いはなんだか、遺骨のように思えた。 「骨色」  そう言ってみると、あなたは私を見て、いつも通りに目を細めて、笑った。ゆっくりと下げられていく目尻、上がる口角。相対的な動きをしているはずの二つの部品は、なぜだか同じ儚さを持っているように思えた。私を見つめる瞳の優しさに、いつまでも囚われていたい。
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