落とし物はなんですか

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落とし物はなんですか

なにかを落としてしまった。 その日から落としたものを私は探している どこで落としてしまったのか。 だれか私の落としたものを知りませんか? 問いかけてもカエルはケロケロ笑いながら 草むらに飛び込んでしまった。 草むらに近づこうとすると足元に蛇がとぐろを巻いて ちろちろと舌を出しながら私を見ている。 「わたしの落としたもの、知らない?」 蛇に聞いてみる。 「知らないね。落としたものは、なんだい?」 「わからないの。」 「へぇ。」 そういって蛇はしゅるしゅると岩の下にもぐりこんでしまった ため息をついて空を見ると黒い鳥が飛んでいた。 空はどんよりして暗く憂鬱そうな色。 うつむきながらとぼとぼと歩き始めると 頭の上から声がする 「お嬢さん、なにか探してるのかな?」 黒い鳥が木の梢に止まって首をかしげる。 「落としてしまったの」 「なにを落としたんだい?」 「それが・・・なんだったかしら。わからないの。」 「ふーーん、分からないんだ。」 カラスは笑うような顔をして、ひと声鳴いて飛んで行ってしまった。 探せば探すほど、何を探しているか思い出せなくなる。 「でも、何かを落としてしまったの。それを探さなきゃ。」 霧の中にまよいこみさまよい歩く。 目を開けているのか閉じているのか 歩いているのか倒れているのか 「探さなきゃ」 自分の声だけがこだまする。 霧が渦巻く。 お前には探せないとでもいうように。 「でも探さなきゃ」 自分の声だけがこだまする。
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