贄の少女

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やがて、夕食の時間になった頃、誰かが戸を叩いた。 少女が戸口で用を尋ねると、外から男の声が聞こえた。 「すみません、旅の者なのですが……雨を凌げる場所をお貸しくださいませんか?この村で灯りがついているのはこの家だけでしたので……。」 少女はのぞき窓からそっと外を見た。 外には黒い影が立っていた……よく見ればそれは耐酸雨性の軍用雨衣を来た男だった。他に人影は無かった。 少女は扉を開け外の人物を招き入れた。 扉が開くと、その男は外で雨衣を脱ぐと軒下に掛けてから中へ入った、 軍靴に着いた雨粒が床に落ちるとじゅっと……音がした。 男は岩見重雄とだけ名乗った。 世界を破滅させたこの前の戦争の生き残りだという。少女は何故か特別悪い人には見えなかったので、中へ招き入れた。 岩見は出された水を飲みながら短く刈った頭を下げて礼を述べた。 「お食事は?」 「まだですが、レーションがありますので……。」 岩見がそう言うと、少女は言った。 「待っていてください、ご用意いたします。残り物ですみませんが……残っていても捨ててしまうだけなので。」 岩見はその言葉に甘えることとした。 食事は簡素なものであったが、レーションに比べると温かみが感じられた。 岩見は箸を口に運びながら周りの様子をうかがっていた……そして、食事が終わると言った。 「失礼ですが、なぜ、皆さんはそんなに悲しげなのですか。 宜しければお話しください……一宿一飯の恩です、私に何かできることがあればお手伝いします。」 そう言って笑った岩見に少女は自分に与えられた過酷な運命を話した。
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