また会える日を楽しみに

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   結局、つるちゃんを見つけることはできなかった。  響や赤塚さんに尋ねても、彼の行方を知る人は誰もいない。  それでも私はちゃんと生きていた。ちゃんと生きていないと、つるちゃんに申し訳なく思ったから。  秋が来て、冬が来て。つるちゃんが居ないクリスマスも大晦日も、お正月も節分も、バレンタインも過ぎていって。  ついにこの町にも桜が咲き始め、lyco-A-ris(リコアリス)が開店してから一年が経った。  ちょうどその頃、sweet silenceの新曲『花水木』が、爆発的にヒットした。作詞作曲は響で、その高い音楽性が評価され、ついに彼の才能が開花したのだった。  冬に無事、響と花房さんの赤ちゃんは生まれ、結婚した二人に世間は祝福ムード一色で、テレビで幸せそうな顔をいじられる響が、とても微笑ましく、私は胸がいっぱいだった。  メイちゃんと桜ちゃんは今年、社会人になり、スーツ姿でお店に寄っては、早くも仕事の愚痴を吐いている。それを親身になって聞いている社会の大先輩たま子さんは、相変わらず元気で、最近ご主人とジムに通うのが日課らしい。  月野さんは、今でもずっとこのお店を支え続けていてくれて、焙煎の技術とセンスは常にアップデートされている。月に一回は、リコアリス会議を開いてくれて、いつも私達に𠮟咤激励をくれるのだった。  アリスの接客は更に磨きがかかり、ファンの来店が後を絶たない。それは美貌目当ての男性客だけでなく、小さな子供、主婦の人やお年寄りなど、様々な人達から可愛がられている。ホール業務の他、コーヒーの抽出や調理もこなしてくれて、今では私よりも手際が良いほどだ。  つるちゃんがしてくれた“恩返し”のおかげで、鮮やかに彩られた私の世界。  だけどまだ、この物語を完結させるつもりはさらさらない。  私はもう、軽々しく人の幸せだけを願うような、薄情者ではないから。
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