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「ま~ことさんっ お花見行こ?」
「ん?」
1週間の入院生活は退屈なものだった。
真琴さんは毎日お見舞いに来てくれたけど、目覚めてからも微熱はなかなか下がらず、精密検査も延び延びになり体はダルかったし、何より真琴さんは面会時間が終わると帰っちゃうから寂しかった。
「あの遊歩道に見に行ってみようよ! もう満開じゃない?」
退院してから後、真琴さんのお休みに合わせて私ももらった今日の休日。
今ぐらいの陽気は、お出掛けシーズンでお店がちょっと忙しいんだけど…ゴリ押ししちゃった。
「そうだね。週間天気予報じゃ2~3日後には雨らしいし…お花見するなら今のうちかな。行こっか」
「わーい」
今は一緒にいられることが本当に嬉しい。
「…………」
「ん? なに? 顔になんかついてる?」
真琴さんにじっと見つめられて思わず自分の顔をペタペタ触って確かめる。
「うん。ついてる。動かないで…」
きれいな手が伸びてきて私の頬に触れると、空気が動いた。
揺れた気配を感じると唇に温かくて柔らかい感触…。
好きすぎるこの気持ちは…どうすれば落ち着くんだろう。
スルッと真琴さんの首に腕を絡める。
「可愛い唇がついてたね」
「そんなことされたらお花見行けなくなっちゃう…」
「お花見とイチャイチャするのとどっちがいい?」
そんなこと聞かなくてもわかるでしょ。
「お花見」
「がーん」
わかりやすいリアクションで落胆を教えてくれた真琴さんだけど、本心じゃないのはわかってる。
だって楽しそうに口角を上げてるもん。
「ね、1本ずつお酒買っていこ?」
「私は飲めないってば」
「気分よ気分。ノンアルでいいから一緒に飲もうよ」
眉根を下げて、降参を現すように肩をひょいっと上げた真琴さんは仕方ないな、と出かける準備を始めた。
わがまま言い放題してるなって自覚はわりとあって、元夫には軽いわがままも言えなかった。
本来の私はたぶん現在の私なんだろう。
だって体調がいい。
少し悪くなっても以前に比べれば回復速度が段違いだもの。
でもそれでもいい、と真琴さんは言ってくれる。
私は私のままでいいんだって。
私もできる限り真琴さんの意見は尊重したい。
「しずかさん、着替えてったほうがよくない? あそこの遊歩道は今から行くならわりと気温が下がるかもしれないから」
「はぁい」
言われて自分の部屋でパンツスタイルに着替え、薄手のコートも羽織る。
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