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叶わぬ恋
あなたの噂は聞いていたわ。力強くて頼もしくて雄々しい人だって。
一度も会ったことも、声も聞いたこともないのに、いつの日かわたしはあなたのことばかり考えるようになっていた。
叶わぬ恋だと知りながら。
一度でいいからあなたに会ってみたい。あなたの噂話を聞くたびにわたしのあなたへの想いは募るばかり。
あるとき、雪の妖精がわたしに言った。
「そんなに彼に会いたいのなら、わたしがあなたに力を貸してあげる」
わたしは冷たい雪の妖精に導かれ、深い森のなか、大きな木の根元にそっと体を横たえた。
浅い眠りにまどろみながら、世界が変化していくのを感じた。ざわざわと楽しげな音楽に世界が喜びの声をあげている。
でもわたしは眠り続けた。
あなたに会うために。
あるとき、わたしの頭上でうるさく叫ぶ者が現れた。この前まで朗らかな声で歌っていた者たちはいつの間にか姿を消していた。
「恋をしろ!恋をしろ!今そのときがやってきた!」
「ずっと暗い土のなか、この日のために!」
わたしは目を覚ました。
光輝く太陽。
わたしが今までに見たこともない強く熱い太陽。
白い大きな雲。
青く高い空。
ああ!
噂どおり。力強くて、頼もしくて、雄々しいあなたがそこにいた。
あなたは愛おしげに、そしてとても悲しそうにわたしを見つめて言った。
「君の噂は聞いていた。とても美しい人がいると。一度も会ったことも、声も聞いたこともないのに、いつの日かぼくはあなたのことばかり考えるようになっていた」
あなたは、その逞しい腕をわたしに伸ばそうとし、ためらった。
「どうか」
わたしが消え入りそうな声で懇願すると、彼は迷わずわたしを抱きしめた。
ああ、わたしは溶ける。
ずっとあなたに恋いこがれたわたし。
わたしたちは出会った一瞬で恋におち、そしてその恋を確かめ合った瞬間に恋は終わった。
熱い太陽を支配するあなた。
夏に叶わぬ恋をした、わたしは冬。
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