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昔の拷問で、食道が破裂するまでごはんを食べさせ続けるってヤツがあったらしいけど、今の私は、まさにそんな拷問を受けてるみたいな気分。
付き合って3年になる彼氏のマサヤは、去年製菓専門学校を卒業して、晴れて憧れてた街一番の人気ケーキ屋さんに就職。すっかり張り切って「早くオレの作ったケーキをお店に並べて欲しいんだ」なんて言って、仕事から帰ってきたら毎日毎晩ケーキの試作品作りに励んでる。
そこまではいいの。夢に向かってがんばってる彼はステキだし、私だってその夢を応援したいし。けどね。
「サリナ! 今度はホワイトチョコクリームが入ったムースを作ってみたんだ。どうかな?」
そう言ってリビングに可愛いお皿を運んでくる彼。目の前のテーブルにそっと置かれたそれは、丸いドーム型の、真っ白でツヤツヤしたムースに削ったホワイトチョコレートがまぶされてて、すっごく可愛くて美味しそう。
「これもすごく可愛いね!」
「ケーキは見た目も大事だからね。でもやっぱり味が一番大事だからさ。ね、早く食べてみてよ」
目をキラキラさせながらフォークを手渡してくる彼。受け取って、ツヤツヤのムースに差し込んで口に入れる。なめらかで優しい甘さが口の中に広がる。ホワイトチョコレートのクリーミーな味わいと、アクセントに入ってる甘く煮たリンゴの食感が心地よい。
「すっごく美味しい! ホワイトチョコとリンゴって、すっごく合うんだね。マサヤ天才!」
素直に褒めると、マサヤは嬉しそうに「ありがとう」と笑う。ああ、その笑顔も甘くてケーキみたい。
うっとりケーキの甘さとマサヤの甘さにひたっていると。
「次はね」
きた。
「ホワイトチョコレートクリームとビターチョコレートクリームを交互に挟んだパイにイチゴを入れたのも作ってみたんだ。はい、どうぞ」
運ばれてきたのは、パイ生地に白と黒のコントラスト、そこにアクセントを加えるイチゴの赤が見目麗しい、とっても素敵な大人のケーキ。
「これはなんだかオトナのケーキって感じだね」
「大人の女性にも食べて欲しいからね。年齢問わず『美味しそう』って思ってもらえるケーキも作りたいんだ」
「うん、お客様のこと考えるのは大事だよね。食べてもらわなきゃ美味しさもわかんないし」
「そうそう。さ、試食してみてよ」
促されて、フォークをパイ生地に差し込む。サクッと心地よい感触と、その中のクリームとイチゴのしっとりした感覚。口に入れると、まさに三位一体。これまためっちゃ美味しい。
「うん! これもすっごくいい! 甘いのと苦みが口の中で溶け合って、そこにイチゴの酸味がいいアクセントになってる!」
「よかったー」
私の感想を聞いて笑顔になるマサヤ。この笑顔を見たいっていうのも、彼の試作ケーキ食べるときの楽しみなんだよね。
私も笑顔になってクリームとイチゴのハーモニーを楽しんでいると。
「で、次はさ」
き、きたきたきた!
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