第三章

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恭一は沙耶香の病室から出ると、タイミングよく携帯の着信音が鳴る。 「龍太郎、どうした?」 「恭ちゃん、君の診察の予約を取りたいんだよ。この前は急患でキャンセルしたからね。」 「そうだったな、今時間あるか?ちょうど今病院に来てるんだ。」 「そうなの?今日休みだったんじゃないの?無理はしてはいけないよ。」 「仕事じゃない、たまたまな。その事も話すよ」 「じゃ、今から外来で。」 「ああ」 恭一はそう言って、携帯の通話を切った。 一度更衣室に行き、白衣を着て外来に行く。 «HIV専門外来»と書かれた外来に着くと、診察室の前のソファーに龍太郎が座って待っていた。 「待たせたな、中に入れ」 「はぁ〜い、恭一先生?」 恭一は、HIV専門医で、龍太郎と園田の主治医なのだ。 龍太郎が後期研修を受けていた時、恭一が初期研修でたまたま精神科に研修に来ていた。 その時から、恭一は優秀だったが、ただ一つ問題があった。どこか思いやりが無くて、患者をよく怒らせていた。 龍太郎と好川は恭一に手を焼いていた。 だが、恭一を知れば知るほど、龍太郎達は彼に好感を持つ。 思いやりが無いわけではない。ただ、ハッキリとした物言いになってしまうのだ。だが、それは恭一なりの思いやりだと二人は気づく。 「恭ちゃん?君なりの優しさと言うのはわかるけどね?患者さんに伝わらなければ意味ないよ。それに、その厳しさが仇となる事もあるんだから。精神科は尚更ね?」 恭一は気まずそうに、龍太郎から顔を背ける。 「分かっていますけど。でも、あの田畑さんにはどうしてもキツく言ってしまいます。ゲイである事の何が悪いんです?問題あるとすれば、男同士で無防備なセックスをして、HIVに感染しているのにも関わらず、奥さんにはそれを打ち明けていない事でしょ?奥さんももし感染しているなら、早期に治療しないといけないのに。無責任すぎますよ。」 龍太郎は、確かにそうだがと頭を悩ます。 「でも、だからと言って、我々が勝手に御家族であろうともプライバシーは守らなければならない。御家族に勝手に田畑さんがゲイである事、HIV陽性である事は言ってはいけないよ。僕からも説得はするけれど、無茶な事は決してしてはならないよ?分かったね?」 恭一は納得はしていない様子だったが、ただ、はいと言った。
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