―雨の中の拾いもの―

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 屋敷へと向かう筋道一つ手前に大通へと面した大きな公園があった。周囲は金網ではなく大きな樹木で囲まれ、そのもう一回り外側に垣根で緑の壁を作った自然公園は、ボール遊びをする子連れや寄り添い語らう恋人達に人気だが、遊具が無いため昼間から公園にくる幼い子供はほぼいない。  挙句に今日は梅雨真っ只中の雨模様。  その入口辺りの歩道に、ずぶ濡れで傘も差さずに蹲っている人がいた。  身形はお世辞にも綺麗とは言い難く、煤けて元の色が分からなくなっている服は所々解れたようにも見える。男性だろうか。 「ホームレスですね」  ミラー越しに視線を追っていた石崎の言葉に無言で頷いた。  住宅街に入る手前の大きな公園にはよくある風景だが、やはり八紘としては何とも言い難い思いに駆られる。 「このご時世ですから」  無言のまま眉間に皺を寄せる八紘の心情を察した石崎の言葉にも苦さが含まれるが、それは救いにはならない。 「気分が悪いのだろうか」  一向に蹲ったまま動かない男に不安が過ぎる。 「救急車を呼びますか?」  服と同じく煤けた色にはなっているが、表情を隠すほど長い髪は元々の色素が薄い事を示すような亜麻色をしていた。  細い項が覗き見え、確かに白いそれに隠れた顔が見たくなった。 「寄せろ」  騒ぎ出した好奇心は止められず石崎に車を脇に付けろと命じると、彼はさも従いたくなさそうに眉を寄せ、バックミラー越しにわざとらしい溜息を吐いた。 「社長、今日は遅れられないんですけど」  呼称はそのままなのに、勘弁してくれとの気持ちの混じる口調が仕事を離れている。 「普段のあんたならどうするよ?」  八紘が友人としての言葉を投げかける。 「また八紘の悪い癖が出たよ。遅れたらどやされんの俺なんだぞ」  完全に仕事を離れた石崎が文句を言いながらも路肩に車を停車させた。 「年長者の責務だな。まぁ、一緒に言い訳くらいしてやるよ」  笑いながら言うと、八紘は真っ黒な傘を自ら差して、ずぶ濡れ男に近づいていく。
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