行く先は感情図書館

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 先日、私はいつものように図書館を利用しに行った。  図書館は良い。  無料で本や雑誌、果ては映像作品も視聴覚コーナーで楽しむことが出来、空調はいつも適温。  更に喉が渇いたら冷水機でよく冷えた水が飲み放題と言う点は筆舌に尽くしがたく、私は文化的教養を深められる上、最高の飲料水を楽しめる無料の娯楽施設、■■市図書館で知識と水分を得に足を運んだ。  そこで私は児童文学コーナーで名著である『シンデレラ』と言う作品に初めて目を通した。  大変素晴らしく、シンデレラのガラスの靴が片方脱げてしまい、結果的にそれが結婚に繋がると言うシーンに大変感銘を受けた。  最初こそお子さま向けの短い絵本を選んだが、私の感動はそこで終わらず、他の『シンデレラ』にも目を通し、その度に瞳に涙を潤ませた。  特に最高だったのが、視聴覚コーナーで観たアニメーション作品のシンデレラであり、私は滂沱(ぼうだ)の涙を流した。 「将来家の中でネズミに会った時のために、小さなシャツを作る練習をしよう」 と心に決め、初心者用の手芸の本を借りることにした。  図書館の検索機と言うのは便利なもので、私はこの機能のおかげで古今東西のシンデレラを楽しむことが出来た。  タッチパネル式のモニターに本の名前を入れるだけで、私の求める本はすぐに見つかる。  おかげで、視聴覚コーナーから泣きながら出てきた私が、司書の方々に直接本の有りかを聞く必要がないのだ。  私は児童用の丸椅子に座ってべえべえ泣きながら手芸の本を開く。  専門用語が並び、早くも脱落の気配が見えた。  まず、『ぬいしろ』の意味が分からない。何故命令口調なのだろう。    今から私が縫おうとしているではないか。やる気を削ぐのは止めたまえ。  私は初心者用手芸の本を、一度借りて持ち帰ることにした。  母に聞けば分かるにちがいない。突然手芸に目覚め、ネズミ用のチョッキを作ろうとする成人男子の私に、大いに驚くに違いない。  私は身も心もシンデレラになりきった気持ちになり、軽やかな足取りで児童書コーナーの自動ドアを抜けた。  ああシンデレラとは、このような気持ちで靴が脱げたのだろうか、別に時計の針は十二時を指し示しては居ないが、私はガラスの靴が脱げたシンデレラの気分を味わおうと、味わい、味わおうとーー。  意外と脱げなかった。  靴のサイズにも寄るのだろうか。  今日は曾祖父の履いていた靴などではないので、私にピッタリなのもよくないのだろうか。  やはり靴紐をきっちり結んでいるのが良くないのか。  私はスルリと抜けるガラスの靴に憧れ、試行錯誤した。  一旦ちょっと靴紐を緩めてみる、踵を潰して履く等試してみたが、一向に脱げる気配が無い。ので、諦めて靴を履き直し、踵を三回、レンガの床に打ち付けた。 その瞬間、レンガの床が抜け落ちるような錯覚を覚え、一瞬だけ目の前が真っ暗になった。
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