青い鳥

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 大学の近くに、カフェという名前の食事をメインにした店がある。  貧乏学生の味方で、安くてボリュームもあって美味い。  若い夫婦が2人で切り盛りしているが、ある日店に行くと、高校生らしいバイトがいた。 「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」  ぎこちない笑顔で少し照れくさそうにいうのが初々しい。 「あれー? 奥さん、どうしたの?」  俺が聞くよりも早く、一緒にいた友人が尋ねる。 「あー…。実はツワリで」  そう言って、店のマスターは恥ずかしそうに頭を搔いた。 「ええっ!? 本当っ? 結婚何年目だっけ?」 「もうじき5年だよ」 「よかったねぇ! おめでとうっ!」 「いやぁ…。何か恥ずかしいねぇ」  言いながらも、マスターは嬉しそうだ。 「何言ってんの! こういう時は、素直にありがとうって言わなきゃ」 「そうだよなぁ。いや、ありがとう」  そんなやり取りをしていたかと思ったら、何故か2人で握手を交わし、流れで俺とも握手をした。 「で、ピンチヒッターってとこ?」  チラリとバイトに視線を向ける。  顔中に『紹介して』の文字が見えるのは俺だけか? 「甥っ子なんだよ」 「奥さんの?」 「いや、俺の兄の子」 「えー、嘘っ ちっとも似てないじゃん」  その意見には賛同だ。  マスターは一見強面でがっちりした体格なのに、バイトはひょろりとしていて、顔も優しい造りだ。  マスターが苦笑する。 「まぁ、兄嫁に感謝だな。兄貴は俺とそっくりだから」 「へぇー」  と言いながら2人の顔を見比べ、しきりに感心していた。  まぁ、気持ちはわからないでもない。 「俺、沢田。で、こっちが高橋。一見怖そうだけど、噛みつかないから安心してね」 「あ、村上慶です。よろしくお願いします」  ご丁寧に深々と頭を下げるから、こっちも一応頭を下げる。 「いつもの2つ」  愛想のいい笑顔を浮かべながら、沢田はバイトに注文する。 「かしこまりました」  いつもの、と言われたところで物がわからないだろうに、何の文句も言わずにマスターにオーダーを通す。  二言三言小声で交わして注文書に書き込んでいたから、マスターにメニューを聞いていたのかもしれない。
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