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くだらないお願いであって欲しいという、彼のささやかな願いは誠也が食べたパリパリの衣のように、簡単に砕け散った。
第一、まずその依頼の意図がわからないし、しかも、頼み事のスケールがデカすぎる。
誠也は箸を持ったまま意気消沈した。
「……ダメかな?」
いや、イエスかノーかで問われたら間違えなくノーだと思いながら、誠也は二つ気になったことを訊ねた。
「なんで同居? なんで、俺?」
「ああっ。そうよねーっ。気になるよね。タハっ」
(タハじゃねーよ。おばさん)と言ってしまいそうだったが、なんとか口に出す前に止めた。
「実はね、私のお世話になっている人の二人目のお嬢さん、あんたと同い年でね?……軽いコミュニケーション障害があって、あと男性嫌いなのよ」
「……。ああ、だから? 」
「でもね、それがあんたの写真見せたらなぜか気に入ったらしくてさ」
「はぁ……」
「この際、ちょっとの間一緒に生活したら男性嫌いも治るかもって、あちらのお母さんが期待してるの。もちろん同居の家賃や生活費はあちらが出してくれるのよ?」
「いやいや、無茶言うなよ。その理由じゃ別に同居する必要もないじゃねーかよ。俺、女と住むとかマジで嫌なんだけど」
誠也はこの上なく不機嫌な顔で首を横に振った。もう女性に振り回されるのはこりごりだと思っていた。
「あら、残念……。まあ、そうよね〜っ」
母親はしょぼくれた顔で呟いた後、立ち上がり炊事場へ行くとガシャガシャと鍋を洗った。
(なんだよ。そんな顔されると俺が悪いみたいじゃねーか。確かに、成長期の俺が一人出て行ったら、家計的に母さんはだいぶ助かるだろうな)
誠也は、罰の悪い顔をしながら残りの料理をほうばった。
「あ、でもさ」
「はい?」
「あんたの大学への進学費用も出してくれるみたいよ? 家にいたら進学諦めなきゃいけなかったけどさ」
「……へぇ。なんだよ。そいつ。金持ちのお嬢かよ」
「ちなみに、これがその子の写真」
母親は、濡れた手をささっと拭いてポケットからスマホを取り出し写真を見せた。
「……!」
写真には色白で、栗色のストレートロングの髪を靡かせた少女が映っていた。
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