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第1話
近畿地方の奈良県某市に所在する私立おさらぎ高等学校。
生徒の自主性に任せた自由でのびのびとした校風で知られるこの学校には、多様な部活動や同好会が存在しています。
その部活動は伝統的に文化部が多くを占め、運動部は大抵が県大会進出止まりと少しばかり地味な成績ですが、こと文化部においては強豪校の呼び声高い部活動がいくつもあります。
例えば、華道部。部員は少数ながら毎年行われる華道の全国大会「花の甲子園」では幾度もの入賞歴を持ちます。
例えば、科学部。部内で複数のチームをつくり、それぞれの研究・実験成果を各地の競技や催し物で精力的に披露しています。
例えば、百人一首部。文化部の中でも最多の部員数を誇り「全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会」の常連でもあります。
◇
さて、春も終わりにさし掛かったうららかな陽が差し込む図書準備室でキャンバスに向かい筆を走らせているのは、2年生の万葉研究部部長、までこさんです。
はてさて万葉研究部――通称・万研部――にもかかわらずなにゆえに絵なんて描いているのか不思議ですが、いつもの事なので気にしてはいけません。
頭の高い位置で結ばれて一本の滝のように真っ直ぐに背中へと流れ落ちる艶やかな髪、透き通るような白い肌、踝までを淑やかに包み込んだ黒いスカート、すらりと伸びた背筋に凛々しくも清楚な顔立ち。
その出で立ちは扇子のひとつも持たせれば一層気品が際立つだろうと思われますが、勿論までこさんはMy扇子を持っています。何故ならまでこさんは自分にそれが似合う事をちゃんと知っているからです。
「窓辺で絵を描くヨーコさん……綺麗だなぁ」
そんなまでこさんとは打って変わって机にだらしなく頬杖をつきそんなことを呟くのは、1年生のアトソンくん。
までこさんとは対照的に短く刈り込んだ髪にがっしりとした体格、たくし上げたジャージから覗く手足はくろく日に焼けています。活発で健康そうなアトソンくんはジャージ姿がやけにしっくりきていますが、近頃は朝の登校から下校するまで常に上下ジャージのままです。ずっとジャージを着ているのは、アトソンくんは自分に制服が似合わないとちゃんと知っているからです。
うっとりと見とれるアトソンくんの言葉に、までこさんは僅かばかり表情を和らげます。
「私よりも絵を褒めて貰う方が嬉しいのだがね」
「もちろん絵も綺麗っすよ! それは……山の絵ですか?」
「これは橿原市にある香久山だよ」
日頃はつれない返事も珍しくないまでこさんですが、描いている絵を褒められては満更でもない様子。までこさんが構ってくれると判ったアトソンくんがいそいそと窓際ににじり寄ります。
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