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パン箱が飛び交っていた。
あったかパン屋さんの裏側は、比喩でも何でもない戦場だった。
こんなの当たったら死んでしまう。
目の回るような戦場に、鼻歌混じりに現れる人がいる。
営業時間の後半を任されているナギサさんだ。
みんなナギサさんと呼んでいる。
苗字なのか、名前なのかは不明。
ショートカットにハスキーボイスだから、一見おじさんなのかおばさんなのかすらわからない。
「お、葉山さん早いね、おはよう」
まあまあ午後である。
呑気な挨拶をしながら、ナギサさんは弾丸のようなパン箱を片手で受け止めた。
まるやのウリは、このまんまるたまごパンだが、ナギサさんはやっぱり鼻歌を歌いながら仕上げの包装をしていく。
あっという間に出来上がった五箱をひょいと担ぎ上げた姿は雄々しい。
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